【なぁ雅紀】
《なぁに、しょーちゃん》
【このまま帰るのか?】
《かんがえちゅう...》
残業後の帰りの電車。
帰宅ラッシュは過ぎて、チラホラと空席のある車内。
疲れてはいるけど、なんとなく腰を落ち着ける気にならず、ドアのそばに立ってぼんやりと外を眺める。
しょーちゃんと頭の中で会話しながら。
結局櫻井さんからはまだ連絡がなくて。
もしかして行ったら会えるかもしれないあの店に行こうかどうしようか迷っている。
「はぁ...」
【雅紀から連絡したらダメなのか?】
「え?...んんっ!」
と、思わず声に出してしまって、あわてて咳払いでごまかした。
【だから、雅紀から連絡するのって、どうなんだ?待ってなきゃいけねーの?】
《いけなくはないけど...》
そう。
確かにそうなんだ。
でも。
《連絡するって、言ってくれたから...それを、待っていたい、気持ち》
【ふむ。そういうものなのか。待っていたいのか。】
しょーちゃんが、むぅっと口を尖らせる気配を感じて、ちょっと心が緩む。
あれ、可愛いんだよね。
今はそれが見られないからちょっと残念。
しょーちゃんの姿が見えているわけじゃないけど、なんとなく、今どんな様子なのかを察することができるようになっているのも主の役割らしい。しょーちゃんが元気かどうか、主としては気になるところだから、まあそれは悪くないかなと思っている。
そんなことを考えているうちに、着々と最寄り駅へ電車がオレを運んでいく。
このまま流れに任せて帰ってしまうのは、惜しいな...と思っているあたり、もう、櫻井さんに会いたい気持ちが募っている。会社で口に出してみて、オレは自分の気持ちもを見つけたんだ。それを認めたらいいだけなんだ。
オレから連絡すればいい。
会いませんか、飲みませんかって、伝えたっていいんだ。
《しょーちゃん、オレ、連絡してみる》
【雅紀っ!!!いいじゃん!頑張れ!!】
しょーちゃんのテンションがあがったのか、オレの左肩がドクッと脈打つような熱さを感じた。