契約の儀式。


「...って、なにしたらいいの」


「簡単な事だ。......両手を出して」

生意気な天使くんの、初めて聞く、大人びた声音。

静かで厳かで、それでいて、あたたかな。

やさしい音。


どこか遠くの空から幸せを歌う声が聞こえてきたら、こんな気持ちになるんだろうなって、柄にもなく思ってしまうような。




向き合って手を繋げば、不思議な感覚に包まれる。
カラダがほどけていく。




『我はこの者が我の主となることを望む。名は雅紀。』



周囲の景色がだんだんぼやけて
ついには白いなにもない空間に変わる
目の前の天使くんだけに意識が集中する
こんな不思議体験をしても恐怖はない
カレの存在が心強くて
なんの根拠もないのに
この子と一緒なら
これから起こることも
なんとかなる

そんな奇妙な安心感となんだかわくわくする気持ち


「雅紀、俺の名を呼んで」



「...しょー...ちゃん」



ふわりと左肩にあたたかな感触。
天使くん......、しょーちゃん、の手が触れているところに、だんだんと熱が集まる。



「我が名はこれより『ショウ』。主、雅紀に我の片翼を預ける」

「え、か、片翼??」

「あ、言ってなかったっけ」


「ちょっと聞いてないけど!?なに、片翼を預けるって!」


「その言葉通りだよ、俺の翼の片方を預けるってこと。これはまぁ、マーキングってことかな。ほかの修行中の天使にはオレと雅紀が契約をしていることがわかる。あと、契約したことで7つの大罪による『誘い』も意図せず堕ちることは避けられる」


「なんだよもー『誘い』とか聞いてねぇし!おもったよりなんかいろいろあるじゃん!」


「...ごめん」



しゅんとする彼をみて、やっぱり『かわいい』なんて思ったオレはもう何かに堕ちてるのかも。


いつの間にか、元の自分の部屋に戻っていた。

左肩に預けられた片翼。

見えないけど、確かに受け取った。



「ごめんごめん、そんな顔しないで。修行、がんばろーね」



目を見て、呼びかける。

真心から、この天使の名を。



「しょーちゃん」


「ありがと、雅紀。これからよろしくな」



そう言ってぎゅっと抱きついてきたしょーちゃんを受け止めたオレは、なんともいえない幸せを感じてしまった。