その夜は、櫻井さんといつも以上にたくさん話をした。
彼は酒も強く、博識。
とっても頭がいいんだろなぁってこれまでなんとなく思っていたけど、それ以上に、ユーモアたっぷりの話しぶりで、オレ自身も楽しくてとにかくずーっとしゃべってた。これまで大人ぶっていたのがうそみたいに、くだらないことでバカ笑い。同年代だとわかった櫻井さん、オレ、そしてイケメンマスターも交えて男子校みたいなノリでとにかく盛り上がった。
こんなに気が合うとは思ってなくて、なんだかすっごく楽しかった。
天使くんの言葉があったからなのか。
『これは幸せな時間だ』って。
ちゃんと大事に過ごせた感じがした。
満たされた夜だった。
ふと、目が覚める。
目の前には天使くんの寝顔。
「ぅううわぁああ!」
「んー、うっせぇなぁ・・・起きたかぁ?」
「...ってぇ、飲みすぎたなぁ」
昨夜はとにかく楽しくて。
結局、いつもよりたくさん飲んでしまった。
今日が休みでマジでよかった。
ちょっと二日酔い気味。
額に手を当ててため息をついた。
「ん?アタマ痛ぇのか?」
「あぁ、ちょっとね、大丈夫だよ」
「そうか...」
むぅっと唇を尖らせる天使くんが可愛い。
「なんでキミがそんな顔するの」
「あのさ、俺の名前、もう決められるよな」
そうだ。
そのためにあのバーに行って、それで、櫻井さんと仲良くなれて。
...櫻井さん。
名前も教えてもらえた。
「おまえの好きなヤツの名前、わかったんだろ?」
「うん、わかった、けど」
「けど?」
「なんか、ただの憧れじゃなくなったっていうか」
「だから、好きなヤツ、なんだろ?」
「ん...そう、だね」
「さくらいしょう、か」
「え?」
「さくらいしょう、だろ?おまえの好きなヤツ」
「なんで...って、そっか、天使くんはそういうのはわかるのか」
「わかるっていうか、まあ、見守ってたから知ってるっていうか」
「そっか、見守ってたか。オレ、櫻井さんのこと、ちょっと本当に好きになっちゃう、かも」
「いいじゃん、好きになれる人に出会えるのは奇跡だ、立ち止まる必要はねぇぞ?」
小生意気な顔で、でも、すっごくまっすぐに、オレに言う。
好きな人に出会えるのは奇跡。
そっか。
「..………….しょう、、、さん………くん……」
「え?」
「名前…ね、櫻井さんって、口に出すとなんかすっごい心がザワザワする。おちつかない。だから、キミを櫻井さんとは呼べない。けど、だからって何か特別な名前を考えることなんかできないから、だから、やっぱり櫻井さんのお名前を借りることにする!!」
「おぅ!」
「だから、キミはいまから、しょー……ちゃん」