結局、名前は決められず。
契約するってことにも、なんとなく納得しきれず。
でも、なんだかんだと状況を受け入れて、カレを可愛いと思ってしまっている自分がいる。
やんちゃな物言いなのに、どこか真面目で、それでいてユーモアもあるカレとのおしゃべりは楽しくて。
あっという間に細い月が空を飾る時間になっていた。
今日を過ごしてみて、天使くんの存在はさすが、という感じで。
これまで特に健康に問題をかかえているとは思っていなかったオレだけど、一緒にいると自然と呼吸が深くなって、カラダが緩まる。精神的にも安らかになることを明らかに感じている。可愛い小さいモノ...ペット?とかの癒しと同じなのか、天使くんのチカラなのかは、わからないけど。
そうすると、アタマの中も余裕ができた。
ものごとに前向きになる。
あの、バーの彼に、会いたい、行ってみよう、声をかけてみようって。
「オレ、ちょっと...出かけてもいい?」
「もちろん!なんでもやりたいようにやってほしい」
「あー、やりたいようにって、つまり『欲望』のままに?」
「そういう意味もあるけど、気持ちに素直に行動して、その中で生まれる『欲』と向きあう。『欲』と『自律』が背反したとき、その辛さに寄り添うのが俺の使命であり、修行だ」
「可愛い顔して難しい事いうね」
「見た目で判断するな。相葉雅紀よりはよほど長くこの世界をみているぞ」
「えー。じゃあ、年相応の姿になってみてよ」
「なってみてって、オマエ、基準を人間で考えるなよ。俺にとってはこの姿が年相応だ」
「あ、そっか」
「なぁ、相葉雅紀、確かに俺は人間にとってみれば子供の姿で頼りなく感じるかもしれないが、何かあれば必ず助けになる。寄り添う。だから、俺がそばにいるあいだに幸せを見つけろ」
しあわせ、か。
咄嗟に『十分しあわせだよ』と、強がることができなかった。
だって、天使くんがなぜか、泣きそうな顔をしていたから。
「ちっせぇくせに生意気なやつだなぁ」
そういって、天使くんの鼻をきゅっとつまんでやった。
振り払われるかと思ったが...予想外。
そのまま白刃取りよろしく、オレの手を両手で包む。
「...あのさ、俺、マジでちゃんと、オマエの側にいるから。大丈夫だから。だから...」
そっと、オレの手を鼻から放して握り直し
「俺の修行に、力を貸してください」
そういったカレの瞳の奥に、柔らかな赤い炎のゆらめきが見えた。