「ぶははっ!なんだそれ!どっかの怪しいサラリーマンみたいだな」

「色々言うより、これが一番人間ウケがいいからな」


「人間ウケって...なに、これまでも何人も修行に巻き込んできたの?」

「巻き込むとは失敬な。ちゃんと契約を交わして、お互いの幸せを追求したぞ」



え?

契約??

聞き捨てならない。



「契約って、なに?」

「鋭いな、相葉雅紀、それでこそ俺が選んだ人間だ」

「いちいちフルネーム呼ばないでよ...雅紀でいいよ」

「いや、『まだ』ダメだ」

「へ?」

「俺はお前を今はまだ個人として認識していない。『人間』という属性、単なる存在として対峙している。真心から名前を呼び合うならば、契約が必要だ」

「真心から?…えっと、つまり、犬、とか猫、とか言うのと同じように、オレはキミにとっては単なる人間という種族って状態で、タマとかポチとか名前を呼ぶと、関係性がうまれるってこと?」

「察しがいいな、相葉雅紀」


これまた怪しすぎる。


けど。


天使だと受け入れてしまえば、ここに現れたことからここまでの説明も『不思議な世界に踏み入れちゃったなぁ』という以外に矛盾はない。


ココロのスキマ、か……


オレとしても今が充実した日々かと問われたら
まったくもって実感はなく。




「ねぇ、契約するとして、具体的には何をするの?」

「『七つの大罪』に、向き合う」

「七つの…たいざい?」

「傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲。聞いたことあるか?」

「まぁ、なんとなく…」



こどもの社会勉強に付き合う程度に思ってたけど、生意気な口から顔に似合わない言葉が出てきたことで、そのアンバランスさから途端に緊張感が漂う。


「それは…ネガティブな感情を排除して、キミがオレを聖人に導く…って修行?」

「排除はしないよ」

「え?」

「排除するんじゃない。感情に『向き合う』んだ」

「向き合う、ねぇ…」




静かにオレを見据える真っ直ぐな瞳。


「俺はお前を選んだ。適当にここに来たわけじゃねぇ。俺は、お前がいいと選んで、ここに来た。理由を納得できるように説明出来ないのは俺だってもどかしい。もしどうにか理由を説明するなら、俺ら天使にとっては絶対的な『神のお告げ』があった、としか言えない。それでも『お告げ』に従って修行してきたこれまでの俺の成長は、確かな力になってる。だから俺はお前を契約する相手として選んだことに自信がある」

「オレがキミから選ばれたのには、意味があると思っていいの?」

「ある!絶対に!」


ある!と力説した強さからは想像も出来ないほど、ふんわりと優しく手を握られた。しかして、その甘やかさとは対極にあるような、強い意志がカレの小さな手を伝わって流れ込み、燃えるような熱い眼差しから目を逸らすことができない。


そして、天使は言った。




「だから、相葉雅紀、俺と契約して欲しい。」