「僕はカレのお眼鏡に適ったかな」



と、呟き輝く水面へ唇を寄せて、ひとくち。
『美味しい』とつぶやき、嬉しそうに口元を綻ばせた。



「大丈夫、あのひとは人を値踏みするようなことはしないよ」

「ふふ、わかってる。でも」

「でも?」

「これは僕の独占欲の問題だから」

「独占欲、ね。なかなか怖いな」

「バーテンダーのカレには悪いけど……翔さんはあげない」




そう言った潤から、圧倒されるような熱を感じた。
威嚇や怒気の類ではない、いうなれば『覇気』とでも言うような。


さっきまで読んでいた小説の主人公は異世界の王になることを承諾して、天から覇気を授けられる。その力で異形を抑え込み、民と土地を潤し、平和の象徴である麒麟と生涯を共にすると誓言する。そして、麒麟と命を分かち、国を治める。


そんな想像を含めて目の前の男をみれば、いかにも『覇王』という肩書が似合いそうな眼差しの力強さ、気品を備えている。その一方で、この男に平伏すことが幸福だと思わされる、心の奥底の欲望を引き出されるような、言いようのない色香。


カクテルをくっと飲み干す喉元はまるで、シルクのシーツが波打つように美しい。更に言えば、強いアルコールを含んだ時の眉根を寄せたその表情は、快感に耐える『その時』の顔を俺に想像させる。


この男の『覇気』を前に俺は何を考えているのだ・・・。

戸惑う俺の内心をよそに、潤はまた俺の、今度は手のひらにキスをひとつ落として、手を離した。

 


「ねぇ、翔さん。今日はどうしてここに来たの?お願いだよ、僕と出会うためだと言ってくれない?」



こんなに美しく、引く手数多であろうに、その気高さに似合わない俺への懇願。

それは先ほど感じた覇気とはまた違う魅力。
切なくも熱い想いが瞳に宿っている。



「潤、どうしてそんなに俺を...?」




潤は小さくふぅと息を吐き、神妙な声音で話し始めた。