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どれほど抱き合っていただろうか。
「しょぉーーーちゃぁーーーーん」
「おぉぉぉーーちゃぁぁーーーん」
森の外。
遠くから呼ぶ声に気づく。
「んふふ、相葉ちゃんが呼んでるな」
「ん、呼んでるってか、めっちゃ叫んでる」
「叫んでるな(笑)」
「智くん、もどる…?」
「そーだなぁ、もどらねぇとなぁ」
抱き合ったまま、お互い声の振動が心地よくて、どうにも離れ難い。
あ、いや、違うって、俺は戻った方がいいと思ってるけど。
ほら、智くんが離してくれないからぁ…
なんて、誰に言い訳する必要もないのに。
そんなひとり茶番を頭の中で繰り返していると、ついに
『ふたりともっ!もどってこーい!!』
森の中に相葉くんからのアナウンスが鳴り響いた。
「っ!えっ!なになに!?」
「あー、ここ、一応防犯と安全のための見守りカメラがあってさ」
「え?森ん中にっ!?」
「そー。んで、呼び掛けも出来るし、怪我とかなんかあったらすぐ駆けつけられるようになってる」
「えっ!すごい!」
思わずカメラを探してきょろきょろとしてしまう。
「あ、もしかしてこれ!?」
と、見つけたのは、小鳥の巣箱に見せかけたカメラ。
「翔くん正解、さすがの観察力」
「えー!すげぇ!!かっけぇ!!!」
と、巣箱に向かって手を振れば
『しょーちゃぁん!見つかっちった!』
『あはは!巣箱がしゃべった!相葉くんだー!』
『しょーちゃん!ビール飲もぉ♡ひえっひえだよ!』
と、相葉くん。
「うん!もどるね!!待ってて………っ、あ!」
やっべぇ。
これだ。
これだよ。
智くんが言ってたのって、これだ。
「えっと、ちょーっと、待ってて、いや、しばらく?待ってて!!」
『もー!しょーちゃん、どっちぃ?ふふ、しばらく待つのね!じゃあ、ビールしまっとくから、後でね!』
巣箱と話し終えた俺は、すかさず智くんに駆け寄る。
そして走った勢いのまま、思い切り抱きついた。
「っうわぁっ!ちょ、翔くん!?」
「あはは!」
「翔くんどうした!?」
「智くんに!抱きしめてもらいに来ましたーっ!」
「なんだよそれ……」
「あー、ごめん、サムかった?」
「んーーー……いや、むしろ激アツ!」
と、智くんが俺を抱いたままぐるぐるする。
「わっ、ちょ、酔う酔う!!ストップストップー!!」
「あはは!酔ったらオイラが介抱しちゃる!」
「もー!俺を酔わせてどうする気?」
笑ってじゃれて、くだらないことでまた笑い合う。
こういう時間がしあわせで。
智くんが愛おしくて。
優しい瞳で俺のことが大好きだって伝えてくれる。
気持ちが溢れた俺は、我慢できなくなる。
いつだって智くんが大好きだから、俺も智くんが俺にしてくれるみたいに、気持ちを伝えたい。
「智くん」
「ん?……ぅんっ!!?んー!!!」
「……もう、智くん、目ぇつぶってよ」
「ちょ、翔くん!?」
「なに」
「いや、なに、とかじゃ、急に、ちょっと」
「キスしていい?」
「する前に聞けや!おい、ちょっ……っん!!」
どうしよう、智くんと自然の中でするキス、すごい気持ちいい。
唇を触れ合わせながら聞いてみる。
「こういうの、ヤダ?」
「いやなわけないだろ」
そう言って智くんから、お返しとばかりに、息も吸わせてもらえないような、熱いキス。頬を両手で挟まれ、逃げ場がない……なんて、逃げるつもりも全然ないけど。いつもは遠慮がちに差し込まれる舌が、いまは俺の口内を好き勝手に弄ぶ。
「ッはァ……智くん、こんなの、今まで、してくれたこと、ないじゃん」
息を整えるのがやっと。
智くんの情熱をそのまんま受止めたみたいに、身体が熱い。
「我慢してた」
「なんで?」
「なんか、翔くんのペースにあわせたくて。でも」
「……でも?」
「さっきヤキモチを認めたら、カッコつけてんのがすげぇ嫌になって……本当は翔くんをもっと欲しいのに」
「智くん……」
風がやさしく木々を揺らして、葉擦れの音が心地よい。
まるで智くんの気持ちを後押しする手拍子みたい。
「今から言うことは、雰囲気に流されるんじゃなくて、本心だから」
「うん」
「だから、翔くん」
「はい」
「今夜一緒に過ごして欲しい」
「それは、そういう……意味?」
「うん。翔くんが、欲しい。抱きたい。」