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朝早く出てきた甲斐あって、まだ昼にもならない午前中。

ひと通りの作業を終えて、オレはすっかりくつろぎモード。

......って言っても、智くんが『オイラが翔くんをもてなす!』とほとんどのことを張り切ってやってくれて、今回も結局、接待

……ならまだしも。



完全に、お姫様状態。


いまだってせっせと晩メシの仕込みをしてくれているなか、オレは爽やかな風の通るタープの下で、優雅にアイスコーヒーを飲んでいる。



「しょーちゃん、おかわりいるー?」


「あ、うん、ありがと!お願いしまーす」



タープに届けられた美味いアイスコーヒーはキャンプ場の名物のひとつ、自慢のバリスタが煎れてくれるウエルカムドリンク。


「うふふ、おーちゃん、はりきってるよねぇ」

「おもてなし、してくれるって」

「そっか!あのひと、ほんとうに楽しみにしてたよ、しょーちゃんが来るの」


そんなふうに話すのは、ここの管理人をしているイケメンお兄さん、相葉くん。彼のバリスタの腕前に甘えて、美味しいアイスコーヒーをごちそうになっている、なう。


「うん、毎日『あれしよう、これしよう』って色々言ってくれてた」

「もう、おーちゃんから幸せオーラ出まくってるよねぇ」



智くんはオレとの関係を相葉くんには伝えてあると言ってたから、オレも遠慮無く話が出来て嬉しい。


「あとでビアサーバー持ってくるから一緒に飲もうね!」


と、明るい笑顔でお代わりのコーヒーを置いて颯爽と戻っていった。

そこへ火おこしを終えた智くん。


「翔くん、相葉ちゃんなんだって?」

「あとでビアサーバー持ってきてくれるって!」

「ふーん、そっか」

「......?」


智くんの顔色がなんとなく曇っている。



「どうした?なんかあった?あ、オレまじでなんもしてなくてごめんね?」

「うんにゃ、そんなのはオイラがやりたくてやってることだから問題ねぇ」


そういって肩に顔を寄せて汗をぬぐう仕草も男らしい。

頼もしい智くんに内心ホレなおして、さらに気持ちが浮きたつ。



「うん、ありがと。あとでビールたくさん飲もう!」

「おう、そうだな」



ふと見れば、遠くで相葉くんが手を振ってくれてる。
身体を斜めにかしげて、片手を腰に手を添えて、反対の手でバイバイをするようなポーズ。全身でアピールしてくるからオレも同じポーズで手を振り返す。そのまま相葉くんは頭の後ろで両手を組むような格好で前のめりになりながら受付のある方へ走り去っていった。


「見てよ智くん、相葉くんウケるんだけど!」


オレは嬉しくて、楽しくて、完全に浮かれていた。
智くんがオレと相葉くんをどんな気持ちで見ていたかも気づかずに。


「みんなで外で飲むなんてたのしみだなぁ」

なんて言いながら相葉くんを見送っていると

「......翔くん、ちょっと」

「え?」


智くんはぐっと意外な力強さで俺の腕を引いて、森の中へと引き込んだ。