「ん……まさき……」
目が覚めたらベッドには1人だった。
身体中に情事のアト。
布団を剥げば、むっと立ち昇る汗と白濁の匂い。
「あー、ひでぇ匂い」
やたらと喉が乾いてる。
そりゃそうか。
昨夜のあの痴態、覚えてるのがタチが悪い。
「はぁ…なんだったんだ…」
とりあえず下着を付けてリビングへの扉をあける。
「あ、おはよ。カラダ大丈夫?」
「ん、ところどころ痛てぇけど、まぁ平気」
「ふふふ。あ、ねぇ、ナカ出ししちゃったから、お腹壊すかもよ?」
「あー…いや、まぁ、うん、いまは、まぁ」
「なにしょーちゃん、歯切れ悪いなぁ(笑)」
雅紀は機嫌よく、朝飯を用意してくれてる。
「ほら、座って座って。フレンチトーストでーす。コーヒー飲む?ラテにする?」
「…ラテにする」
「はいよ♪」
「雅紀…すっげー機嫌よくね?」
「そりゃいいよ!だって!だってだって!憧れのー!」
「憧れの?」
「だ、き、つ、ぶ、し♡」
「だきつ…抱き潰し!?」
「そ!しょーちゃんがトぶまでめちゃくちゃにしたかったんだよねぇ」
そんな物騒なことを言った雅紀は、幸せそうに俺を見つめる。
甘い甘い瞳で。
その甘さが嬉しくて、そのぶん、切なくて。
聞かざるを得なかった。
「あのさ……俺、雅紀にすっげー我慢させてた?」
今度は、びっくりのまあるい瞳。
くるくる変わる瞳の色。
考えていたのは一瞬。
雅紀は、答えた。
やっぱり甘い甘い瞳で。
「んー『させてた』ってことは無いけど、オレがしょーちゃんを大事にしたかったから加減をしてたってのはあるかなぁ。気持ちいいってだけで愛してあげたかったから」
「そ、か……ありがとな、と、ごめん。満足させてやれてなかったってことだよな」
「違う違う!セックスの気持ちいいのって、出すだけなわけないでしょ?しょーちゃんは無意識かもだけど、いつも抱いた後にオレに擦り寄ってきて、満足そうに幸せそうにしてるの見るのが、めちゃくちゃ癒しです!だから十分満たされてます!」
「…マジか…はっず」
自分の無意識の行動が怖い。
しかしそれが、本心、ということか。
「でもさでもさ、しょーちゃんも、実は、『もっと』って思ってたってこと、だよね?」
「あー…それは、昨日知った、自覚した」
「そしたらさ、もう、お互い遠慮なしで、したいこと、して欲しいこと、ちゃんと言お?もちろん、セックスのことだけじゃなくて、普段から全部、ね?」
「そうだな…俺も我慢してたとかじゃないけど、『こうありたい自分』みたいのはあって、でもそれがいつの間にか『こうあらねばならない』って、自分を縛ってたのかもしんねぇな」
「しょーちゃんは自律心が強くてカッコイイけど、たまーに、すぎるんだよね」
「……」
「しょーちゃん?どした?」
「あー、いや、雅紀に負担になったらごめんだけど、もっとなんつーか…ワガママ?みたいなこと、言ってみてもいいのかなって」
「うん!もちろん!いいに決まってんじゃん!言って言って!どんどんいって!しょーちゃんからワガママ言われたい!そんでそれを絶対叶えたい!すっげー甘やかしたい!」
「はは!すげぇテンションあがるじゃん」
こんなふうに笑いあってる時間が、愛おしい。
雅紀がどれだけ俺を大切にしてくれているか、思い知った。
あんな怪しい薬がきっかけになったのは不本意だけど。
「しょーちゃん、あの『毒』のやつさ、また貰ってこよっか!」
「やだよ俺、アレ怖ぇよ、なんかおかしくなった瞬間覚えてるもん」
「そーなんだぁ、オレは酔ってたからあんまわかんなかったかもー」
「アラひどぉい!酔った勢いであんな酷いことしたのねぇ!」
「ちょ!しょーちゃん!酒のせいなんかじゃないって!でもだからってクスリのせいにもしたくないし……あぁもう!どーすりゃいいんだよー!」
俺のおふざけに真剣に応えてくれる雅紀が可愛くて仕方ない。
そして改めて思う。
好きだな、と。
俺、雅紀が本当に、好きだ。
「なぁ、雅紀。さっそく、ワガママ、言っていい?」
「なになに?なんでも言って!」
俺用のラテをもってキッチンから出てきた雅紀が、カップをテーブルに置く。『熱いから気をつけて』と、優しく言ってくれる。
「なぁに?しょーちゃん」
「昨夜は、あのまんま寝ちまったじゃん?」
「うん」
コホン、と、咳払いをして、気持ちを決める。
そして意を決して、言う。
「一緒に風呂、入ろう?俺のこと…キレイにしてくんね?」
「えっ……え、え、あっ、え」
「あははは!雅紀、落ち着け、そんな動揺されちゃ、こっちがやりずれぇわ」
「だって、だって!まさかの、そんな可愛いおねだりだなんて!オレ幸せすぎるんだけど!?しょーちゃん、オレをどうしたいのっ!!」
「ん?そーだなぁ、俺、雅紀を身もココロも独り占めしたい、かな……っぅわぁっ!」
俺は抱き上げられて風呂場へ強制連行される。
こっからまた、何をされるかわからないが、少なくともお互いに、我慢も遠慮もナシ。これまでの関係性から、また新しい2人が始められるかと思うと、ワクワクする。
「好きだよ、雅紀」
「しょーちゃんが甘すぎてツライ……」
「あの毒より甘い?」
「あの毒より!ずーっとずーっと甘い!」
こんな幸せ、心に想うだけじゃもったいない。
ちゃんと伝えて、喜ばせてやりたい。
雅紀が俺をどれほど愛してくれてるか思い知ったから。
「思う存分、味わってくれたまえ」
「なにそれ……オレ、しぬのかな、ボーナスタイムが過ぎる」
「俺の毒が効くのはまだまだ先だな。死ぬまで一生、盛り続けてやるから、覚悟しろよ」
雅紀につたわったかなぁ。
まぁ、また後で言えばいいか。
いまはひとまず、毒より甘い、甘やかされタイム。
おわり