急に降り出した雨。
いや……決して急なこと、ではない。
ただ構えていたとて、だ。
なぜいまこのタイミング?と思うことだってあるだろう。
今は梅雨だ。
当然、雨は降る。
昼間の曇天から夜に持ち越した雨の勢いは激しく、それは思いのほか体温を下げた。
季節は不安定に、でも少しづつ進んでいく。
そんな日々を感じながら、俺たちは安定。
今夜も仕事の後に雅紀と飯を食い、同じ部屋に帰る。
いつものことだ。
…が、アクシデントは、ふたりの『いつも』を少し狂わせる。
「ほら、しょーちゃん、ばんざい」
「自分で脱げるって」
「ほんとぉ?」
「ホントだわ!」
と、言ってみたものの。
玄関でひとまず靴下を脱ぎ、今日持ち歩いたハンドタオルで足をさっと拭いてとりあえず風呂場へ。そこで濡れた衣服を洗濯機へ入れてしまいたいのに、服が雨にしたたかに濡れたせいで思うように扱えず、体に張り付いて全く身動きがとれない。
俺が手間取ってる間に雅紀は手際よくシャツを脱ぎ、デニムから脚を抜いて既に下着姿。
コイツの身体の仕上がりは相変わらずで、いわゆる『パンイチ』状態だが、情けないどころかやたらな色気を見せてくれる。
雨に濡れた髪。
しっとりと濡れた背中、その広さ。
いつも見ているのに、いつだって惹かれる。
思わず見とれていると、雅紀の声に引き戻される。
「ほーら、しょーちゃん、全然脱げてなーい」
「こんな脱げねぇとは思ってなかったわ」
「わかったわかった、脱がせてあげるからね、バンザイして」
と、やたらご機嫌に俺から服を剥ぎ取る。
まぁどうせいつもコイツには好き勝手脱がされてやりたい放題されてるワケで。今さら恥ずかしがる意味が無い。もうこうなれば潔く脱がせてもらった方が、冷たい服と不毛な格闘をするより何倍もマシだ。
と、大人しく世話をされようと観念した…のに。
「おっ…まえ、ちょ、雅紀、いきなりなにすんだよ」
「だってしょーちゃんが可愛すぎて我慢できない」
あろうことか、脱がされたシャツの腕を抜いてもらえないまま、後ろ手に縛られてしまった。タダでさえ柔軟性に乏しい俺の体は、腕を縛り上げられただけで簡単に可動域を失う。そのせいで恐ろしいほどの不自由に追い込まれた。
そんな俺を見て雅紀は言う。
「やば…えっろ」
「雅紀、なにしようとしてる」
「オレここでしょーちゃんを抱きたい」
……言うと思った。