ふと、意識が浮上する。

相葉くんに抱き込まれて眠っていたようで、寝汗がひどい。

もぞもぞと腕の中から抜け出して


「相葉くん、シャワー借りるよ」



寝顔の彼に小さくささやいて、頬へキス。

・・・を、しようとして、思い直し、唇へ。



一度、二度・・・と、唇を啄む。
彼の寝息の様子を確かめ、変わりないことを感じたら、また。


・・・いつまでも終われないな。



少し開いた唇をぺろりとひと舐め。
やはり離れがたく、寝顔を見つめる。

昨夜は散々に追い詰められて、ついには意識を飛ばした。
そんな戦犯の本人は満足そうに眠っている。



「かわいいな・・・」



いい加減キリがないと、『ヨシ』と小さく掛け声。
振り切ってベッドを抜け出そうとしたとき、ぐっと手首を掴まれた。


「・・・っ!?」

「やっと、してくれた」



そういった相葉くんは・・・完全に覚醒していた。





「・・・起きてたのかよ」

「うん」

「いつから」

「しょーちゃんが起きる前から」

「マジかよ」

「うん」

「まあ、それでいうと、いままでも、だけど」

「は?」

「いままでも、ずっと、ほっぺにちゅーってしてくれてたの知ってるし、なんで口にしてくんねーんだろって思ってた」

「・・・うそだろ」



そして『やっと唇にしてくれたねぇ』と嬉しそうに言う。





バレてた。
悪い事をしていた訳では無い、から、バレていたところで。

だが、バツが悪いというか、やっぱり情けない。


そんな項垂れた俺をみて『一緒にお風呂入ろ』と、相葉くんはなんだかとても嬉しそうにしている。




昨日の情事の名残を流して、2人で湯船に浸かれば、馴染む肌が心地よい。
ココロとカラダが緩む。

腹の前で組まれた手の重さに、言葉にするにはどれも当てはまらない満ち足りた心地良さを味わう。その手を弄び、解いてやればまた組み直され、時に腹を撫ぜ、胸元に這わせようと指が動き出せばそれを阻止して笑いあう。

・・・簡単に言ってしまえば、これは「しあわせ」なのだ。






「ずっとしょーちゃんがどうしてほしいか、そればっかり考えてたらさ、オレが、しょーちゃんにしたいことがわかんなくなってた」


相葉くんがぽつぽつと語りだす。



「相葉くんが、俺にしたいこと?」

「そう、しょーちゃんに喜んでもらいたい、気持ちよくなって欲しい。カラダを繋げるだけじゃなくて。仕事がうまくいくように支えたいし、癒しになりたいし、できればオレがしょーちゃんの元気の素でありたいって。『しょーちゃん、オレに何して欲しいかな』って、そればっかり考えてたら、アレ?オレってしょーちゃんに求められてる?もしかしてオレがしたいことしてるだけ?オレの勝手な『してあげたい欲』が満たされてるだけなのかも・・・って」

「・・・相葉くんは『他者思考型』のギバーなのに『自己犠牲型』しちゃってたんだな」

「たしゃしこうがたのぎばぁ?」

「ふふ・・・簡単に言えば、相手に与えることばっかり考えて自分の利益を顧みないのが、自己犠牲型、相手も自分も同じくらい気持ちよくなろうとするのが『他者思考型』だな」

「自己犠牲だなんて考えたこと無かったよ。だって、無理してるわけじゃなかったから。しょーちゃんが気持ちいい顔してくれたらめっちゃ満たされてたんだよ・・・でも」

「でも?」

「しょーちゃんが、オレのことを『欲しい』って思ってくれてるか、不安だったよ」

「・・・え」

「だって、オレになんにも求めないし。寝てるのに、隙だらけなのに、キスまで遠慮してさ」

「結局、バレてたわけだけど。」

「うん、だから余計にね。知っちゃったから、なんでだろうなぁって。なんの遠慮かなって。もっと、もっとちょうだいって、オレをねだってくれたらいくらでもあげるからって・・・ずーっと思ってた」

俺をぎゅっと抱き締め直して『すごい寂しかったんだよ?』と耳に唇をつけて言う。


そんな物言いに顔が緩む。
しあわせなのだ、と、あらためて思う。





「あー・・・もう、こんなの知っちゃったら、俺ダメな気がする」

「なんで?」

「なんつーか・・・ずっと、相葉くんのことばっかり考えそう」

「え?ずっとって、zero中でも?しょーちゃんそんなエロキャラだった?」

「ちげーって!なんで相葉くんのこと=エロいことなんだよ!」

「え、ちがうの?じゃあオレのことってどんなこと?」

「んー・・・今何してんのかなぁとか、会いたいなぁとか、そういう普通のことだろ」

「・・・え、しょーちゃんが、なんか・・・なんか・・・えー・・・」

「なんだよ」

「・・・なんていうか・・・甘くてしんどい」

「いや、なんでだよ!」

「えーだってぇ、甘さ控えめに慣れすぎて。むしろ塩対応がデフォルトだったから・・・え、だいじょうぶ?飛んじゃって、おかしくなった?」

「おかしくするっつたのは相葉くんだろーが」

「そうだけど」

「んだよ、いいだろ。ちゃんと伝えるって決めたんだから、これからは嫌ってほど言ってやるからな」



なんて、素直になりきれず、悪態で誤魔化して。
これのどこが甘いんだか。
相葉くんのことは相変わらずわかんねーなと、思う。


でも・・・。

これだけはわかった。
相葉くんから求められることは、幸せな事なのだと。


だから。




「俺、相葉くんが欲しい。もっと、ちょうだい?」

「うわぁ・・・ちょっとしょーちゃん、いつのまにそんなにおねだりが上手になったの・・・?」





そんなふうに、戸惑ったように、困ったように、言うくせに。



直後のキスは、熱くて優しくて、ひどく甘ったるかった。