「調子はどうだ?」


「んー、頭パンクしそう・・・」


「うっわ、めちゃくちゃ長ゼリ、しかも説明台詞・・・」

「そーなんだよぉ・・・気持ちを語ってるから変に説明的にならないようしたいんだけどさぁ」

「だけど熱が伝わっても、説明として伝わらないと意味がない、と」

「さっすがしょーちゃん、そゆことー」


きっとストーリーに何かしら感じるところがあったのだろう。
台本に向き合う雅紀は言った。




『おれたちってさ、不自由を感じられる程度には自由、だよね』



と。




「雅紀の言わんとしている事はわかる。なんで、そうおもった?」

「んー。しょーちゃんはずっと前から戦争のこと調べたり、普段から政治のことも詳しいじゃない?」

「まぁ、ある程度はな」

「時代によっては、自由って意味さえも自由に考えられなかったわけでさ。あんま難しいことは上手く言えないけど、今おれを縛り付けるものは何も無いのに、なぜ、なぜにおれはこんなにも抑圧されているのだろうか!?」

「なに、急だな」




「ぅぅうあああぁぁーっ!」



叫ぶやいなや、雅紀は頭をかきむしっている。



「おい、なにそんなイラついてんの(笑)」

「しょーちゃんは、イラつかないの!?」

「うん、特には・・・」

「なんでだよ!おれは、おれは・・・後悔してるー!!」




雅紀が何を言っているのか。


それは。

「お前自分で言ったんだろ?『台本覚えるまで禁欲する』って」

「いった!いったよ!言ったけど、ぜんっぜん集中出来ねぇ!」

「欲求不満で集中できないって、中2かよ(笑)」

「中2のおれじゃしょーちゃんを気持ちよくしてあげれないからそれはダメだ!」

「雅紀、何言ってるかわかんなくなってるだろ。ちょっと休めば?」



と、雅紀の座るソファの隣に並んで短く切った髪を指ですいてやる。カタチのいい耳が良く見えて、俺は今の雅紀の髪型を気に入っていた。耳たぶを摘んで、親指で撫でる。






「しょーちゃん、誘ってんの?」




俺の手を握って、指先にキスをくれた。
既にロックオン。
瞳の奥に熱がよぎる。


・・・期待通り。
俺から誘ったら、雅紀は100%応えてくれる。

でも、あくまで選択権は雅紀に。



「んなわけねーだろ、禁欲中のやつ誘うなんて鬼の所業だ」

「しょーちゃんは、いま鬼?」

「・・・ん?」

と、とぼけて見せれば


「ずっりぃなぁもぉ!」

「なーにがぁ?休めば?って言っただけじゃん」

「おれのコイツはヤル気満々になっちゃってるよ!」



と、握っていた俺の手をそのまま臨戦態勢の雅紀のソレへと無遠慮に誘う。冗談のつもりだったかもしれない。俺から『頑張れ』と手を離して、コーヒーでも入れてやればいいのは明白。


だけど。



「欲求不満は、俺も同じなんですけど?」

「・・・え?」

「雅紀だけが我慢してると思うなよ」


そういってあてがったままの手を雅紀のカタチに沿って動かしてやれば、ビクッと跳ねるソコ。その反応は俺を喜ばせる。

そして。
だから。

結局、ダメ押ししてしまうのは俺の方。



「今日・・・寒いよな」

「・・・うん、さむい、ね」


見つめあって。
探りあって。
諮りあって。

俺から、伝える。

「桜も雨で散るかもなぁ・・・」

「それは寂しいね・・・せっかくキレイに咲いたのに」


そう言いながら、雅紀の大きな熱い手が俺の頬を包む。



少しずつ、近づく吐息。
ゆっくりと触れ合わせる唇。


「おれが、あたためたら、さくら、咲くかな」

「ためして、みる?」





ごめんな雅紀。
明日はセリフ、付き合うよ。