顔をまともに見られなくて、背中越しにしゃべっていた。
智は全部わかってるってことが、わかった。
振り向けば、そこには当たり前に智がいる。
優しく甘く、熱く、いつも通りに俺を見つめて。
その顔を見たら、涙腺が緩んで。
ぽろぽろと雫がこぼれる。
頬を伝う涙の感触に、まーくんが消えたあの冬の冷たさを思い出す。
思い出すけど
「カズ、我慢してんのか」
「・・・してない」
「してんのか?」
「・・・して、ないっ・・してない、よぉ・・・っ、ぅう」
「はは、できてなーな」
「ぅわーん・・・さとしぃ・・・」
「あはは、こどもか」
智の首に腕を回して抱きつけば、ぐっと引き寄せてくれる。
その力強さに安心して、いよいよ涙が止まらない。
今日も、これまでだって、何も言わない智の強さにどれほど甘えてきたのだろう。ぐすぐすとだらしなく泣いて、それでも抱きしめてくれる智にどれほど救われているのだろう。
智なら頼っても支えてくれると信じさせてくれる。
信頼。
そしてそれは、愛につながる。
どんな俺も愛してくれるって。
だから、素直になれる。
「・・・あのね」
「ん」
「まーくんのことね・・・寂しいなっておもう」
「うん」
「だけど、悲しいとか、ツライとかは、もうないんだ」
「そうか」
「智が、ずっと、一緒にいてくれるから」
「・・・和也」
智は俺の身体を離して、俺の左手のリングを撫ぜる。
リングの下には、誓いの傷跡。
「オレの気持ちがカタチになるなら、例えば、これ」
「うん」
「和也が『結婚しよう』って言ってくれて、こうして一緒にいられて。オレは、本当に幸せだよ」
「・・・どうしたの、急に」
「相葉さんの前で、ちゃんと言おうと思って」
「・・・うん。」
風が2人の髪を揺らして抜けていく。
遠くの海が、陽を弾いてキラキラと揺らめく。
智は俺を一度、ぎゅっと抱きしめて。
それから向き合って、両手で頬を包んで温めてくれる。
少し荒れた親指が俺の目元をぬぐってくれる。
それは、とても静かなひとときだった。
「綺麗だな。真鍮色の瞳」
智に甘く甘く、見つめられながら。
すごく大事なものなのだ、と、語る瞳で愛おしげに俺を見る。
額、両頬、そして唇に。
そっとくちづけを受けて。
「和也・・・愛してる」
「うん、俺も・・・」
何度も、何度も。
智から。
俺から。
くちづけを贈り合う。
言葉の代わりに、温もりを。
まーくんの前で、2人で誓う。
あなたはきっと、喜んでくれるよね。
俺はもう、あなたを想って悲しい涙を流すことはないんだから。
『にのちゃん、だいすきだよ』
あぁ。
そうか。
これから俺は、智と、生きていくんだ。
遺された者は、生きていかなきゃいけない。
俺は。
まーくんの想い出を、心の宝箱にしまって。
思い出せるのは、笑顔のまーくんだけ。
こんなに愛してもらえてたって
こんなに愛を残してくれてたって
やっと気づけた。
ありがとう。
俺も。
まーくん。
あなたが、本当に本当に、大好きだったよ。
あなたと過ごしたいとしい日々を、忘れない。
おわり。