風間さんを通じてまーくんのご家族に連絡をさせてもらって。


それはそれは驚かれた。


そして『あの子はあなたに出会えて、本当に幸せな青春を過ごせた』と言ってくれた。『雅紀が最期まで笑顔でいられたのは、にのちゃんのおかげ』とも。


お墓参りをしたいとの申し出を快諾していただき、まーくんのご両親が電話で俺に、本人の意思を尊重して俺に連絡をしなかったこと、そして何より、ありがとうと、感謝の言葉を伝えてくれた。


・・・そっか。



笑顔のまーくんに想いを馳せる。

俺が思い出せるのは、制服やユニフォームの彼。
そして、最後の日に二人で過ごしたあの時間。

俺の中の彼は、いつでも笑顔だった。

それ以外は知らないし、知らなくていい。
・・・と、やっと思いきることができた。

さよならを言いたかった、とか、悲しさや寂しさはもちろんあるけど、それよりも、彼の最期が笑顔であったなら、それが俺との思い出があったからなのであれば、本当に良かった・・・って。

自分でも意外なほどに、あたたかい気持ちになった。









それから程なくして。

今日、ここに。

俺は智と一緒に、まーくんの眠る場所へ向きあう。









まーくん。

いま、ここにいるんだね。






霊園の入口には質素だけど温かみもある、小さな建物。
入園の記帳をして、小高い丘を登っていく。
整備された階段が続いて、登るごとに心臓が早まる。





「智、ちょっと休憩」

「おぉ、ゆっくり行けばいいよ」



ふぅっと、息を深く吐いて、整える。


この鼓動の速さは、階段を登っているから、という理由だけでは無い。どうしたって、意識してしまう。ちゃんと受け入れて、理解して、今日が本当の本当に区切りになるって、しようって、決心してここに来た。



足元を見ながら、一段、一段。

白い息を吐きながら、一段、一段。





ふと、周りを見渡せば、木立に囲まれて、その隙間からは、遠くにうっすらと海が見えている。




「夏にはきっと虫とか多くて、セミも大合唱で、俺はひとりじゃ絶対に来られないよ。虫、怖いもん。」

「ひとりじゃ来させねーよ」

「あら、それはそれは心強い・・・やきもち?」

「どうだかな」

「ふふ、大丈夫、智、好きだよ」

「・・・おう」




階段から逸れて、目指す場所へと石畳を進む。
ひとつひとつ。
見逃さないように、ゆっくり進む。


そして、目にした、彼の苗字。


心臓が跳ねる。

落ち着け、と本能なのか。
思わず深く息を吸い込んだ。

一瞬止めて、ゆっくりと息を吐く。




白く美しい花崗岩の、墓石。






「ここだね・・・代々のお墓なんだ・・・」





墓石の横を覗けば




名前と、享年。



「・・・ホントに書いてある」




刻まれたまーくんの名前。
ここにあるのは亡くなった人の名前。




「まーくん、画数多いなぁ・・・こういうのって、ここでこうやって横からガリガリって掘るのかな?それとも墓石外したりすんのかなぁ。智できそうだよね、石も」

「和也」

「はー、さっむ!水桶持ってこなかったけど、こんな寒い中でお水かけたら凍っちゃいそうじゃない?石って冷たいもんねぇ。墓石ってお水かけてゴシゴシしていいんだっけ、しない方がいいんだっけ、智しってる?」

「・・・和也」

「じぶんちのお墓参りもロクにしてないから・・・何したらいいかわかんないや!本当は、お線香とか・・・いるんだもんねぇ・・・よし!・・・今度、来る時は、お花とお線香と、あと・・・あと、ちゃんとお水も、ね、持ってこよう!うん・・・そうだ、そうしよ、あ、風間さんと来ればいっか!ね、智!」

「カズ」

「はぁー・・・それに、しても・・・いい眺めだなぁ・・・あれ見えてるの海かなぁ、さっき途中で見えてたけど、ここまてま上がって来たら良く見えるね!智、釣り、したいんじゃない?次回は釣り道具も必要かなぁ?」



「・・・・」




「ね、さとし!」







「和也」



「・・・なぁに」



「おいで」



「・・・・・・うん」