智とは変わらず穏やかに過ごしていた。
昨日の続きに今日があって、当たり前に明日の話ができる毎日。


愛する人の不在に怯えたり傷ついたりしなくてもいい日々は、こんなにも幸せなのかと、怖くなるほどだった。俺は智から向けられる俺への愛情を完全に信じていたし、それほどに智は俺を溺愛していた。
自分でも、そう言えるくらいに。





そんなある日。



「和也、これ」



差し出されたのは、黄金色のリング。


美しく彫金されたそれには、どれほどの想いが込められているか、俺にはわかる。




「オレが和也を愛してるって、証に。」

「智・・・」

「あのさ・・・素直に言うけど・・・和也がたまに、たぶん無意識にここにキスをしてるの見るとさ、ちょっと、羨ましくて」



ここに、と言って智は俺の左手を取り、薬指を撫ぜた。



「え!ごめん、それホント無意識だ・・・いつしてた?」

「昨夜もしてた。イクの我慢してる時」

「・・・はっ?・・・はァ!?それウソだろ!」

「ホントだよ。めちゃくちゃ可愛い顔して、そんなことされてみろ、オレはもうアタマも感情もぐちゃぐちゃになる」

「あ、」

「理性ぶっ飛ばして本能任せでヤルしかねーし」

「そっかだから・・・」

「心当たりあんだろ?」



そうだ。
昨日も急に智のネツが、昂ぶった瞬間があった。
もう無理と喘ぎ、何度イかされても、智の滾りは俺の腹のオクを攻め続けた。

その時の智は、俺が好きな彼の瞳で。


欲と、慈しみと愛情を湛えた

素材と向き合う時と同じ熱さの。

青い炎が映る智の瞳。

その瞳に見つめていて欲しくて。
結局、ドロドロに抱き潰されたのだった。

カラダが思い出す。
うっかり反応しそうになる。



「・・・ない!心当たりなんかないよ!」

「なにいってんだよ、昨日だって・・・ッテェ!」


ギュッと智の耳をひっぱってこれ以上喋らせないことに成功したが、俺はいま、自分の耳が赤くなってることを自覚してる。



「もう黙れ!仕事しろ!」



智をアトリエに押し込んで俺は2階へ駆け上がる。




はた、と。

「あ・・・リング、受け取ってないや」





せっかくの智の気持ち。
ちゃんと向き合いたい。




いつぶりだろうか。


まーくんの手紙を取り出す。


カサカサと乾いた音が動悸を早める。

封筒から出して、ゆっくりと広げれば。






『にのちゃん』


『すきだよ』


『だいすきだよ』





「うん、俺も好きだったよ。」



・・・大丈夫、俺には智がいるよ。安心して。」





手紙にぽつぽつと返事を返しながら読む。





「そうだね、本当に幸せだったなぁ・・・ありがとね。」




「あるよ、ちゃんと。無意識にキスしちゃってるみたいで・・・智に言われた・・・もうとっくに18歳なんて過ぎちゃったよ。」



深呼吸。
智の鼓動と息遣いを思い出して。




「まーくん、俺ね、いま智と生きてるんだ。いま、と、この先、ずっと、一生。・・・そうしたいんだ。」





まーくんの言葉がよみがえる。



『結婚したい。それがずっと、一生、死ぬまで、にのちゃんと一緒にいられる方法なら』





「だから・・・だからさ、」




深呼吸。
深く。
ゆっくりと。
智の首筋に顔を埋めている時のように。





「智に結婚しようって、言ってみるね」