もうこれが最後、と決めて思い切り声を上げて泣いた。
まさに声が枯れるまで、彼の名を呼び続けて。
今まで、堪える涙ばかりだった。
けれど今日は。
彼を愛した想いを涙に込めた。
だからなのか。
思いのほか、気持ちが軽くなっていて驚いた。
喉は痛いし目元は熱くてちょっとだるいけど、それでも溜め込んだ鉛のように重く凝り固まった想いがじんわり溶けて、身体中に馴染んだように感じる。
もうとっくにそうであったのかもしれないけど、それをキレイなものにしたくなくて、ずっと傷だらけのままで埋めてあった記憶。
自分の手で取り上げて、ちゃんと見つめれば
それは、輝く宝物だった。
体育館を後にして、職員室へ立ち寄る。
遅くなった詫びと自由に校内を歩かせてくれたお礼を告げる。
泣き腫らした俺の顔を見るなり、先生が顔をゆがませ『二宮、頑張ったな』と、ひとこと。
「先生、ありがとうございました」
「おう、また来いよ。今度はゆっくり思い出を語り合おうじゃないか!」
「ふふ・・・はい、ぜひ」
茶化しながらも、優しい目で見送ってくれた先生に心から感謝する。
きっと、先生もつらかった・・・よね。
すっかり暗くなった道をゆっくりと歩く。
智と、手をつないで。
まーくんと歩いた、思い出の道を。
「まーくんと付き合ってたのって、たった半年くらいだったんだ。・・・だからね、俺はこの道を一人で歩く時間のほうがずっとずっと長かった。それなのに、学校の中も、この道も、通りすがりの公園とかも、どこもかしこもまーくんと過ごした思い出ばっかり」
しずかに聞いてくれいてる智の手が、きゅっと握り直されて。
俺は安心して言える。
「だから、どこいってもずっと逃げ場がなくて・・・寂しくて、つらかった」
「・・・よく頑張って、オレんとこまで来たな」
「え?」
「乗り越えられないつらいことの真ん中にいて、それでも、少しづつでも和也が自分の時間を進めて、こうしてオレに会う瞬間まで生きて、来て、くれたんだ」
智がなにかを思い出すように、遠くに輝く、夜空の傷口みたいな月を見てる。
「だから、ありがとな、オレに辿り着いてくれて」
「・・・うん」
智が繋いだ俺の左手を持ち上げて、薬指に残る傷にキスをくれる。
ずっと一緒にいようと、まーくんとした、約束の証に。
街灯に照らされた智の横顔。
伏せた目元が、あんまりにも美しくて。
「なんだか、智がいつもと違う感じがする」
「・・・変わったのは和也だな」
甘く見つめ合って、唇がやさしく触れ合うだけのキスを交わす。
命のあたたかさを感じる。
ここに智がいる、愛があるって、信じられる。
みえないものだけど、とても強く、確かな。