流れる涙は頬を伝い、襟首を濡らす。
嗚咽混じりに彼の名を呼ぶ。




「まーくん・・・ま、くん・・・っく、・・・」



思い出に飲み込まれそうになる俺を
シャツの冷たさが現実に留めてくれている。








この場所で、幾度となく、甘く、熱く、名を呼び合った。
好きだとささやき、欲しいと求めた。






いまは、もう。


いくら彼の名を呼んでも、返事は帰ってこない。





このマットも、あの跳び箱も。

すべてが過ごした時間につながる。


あの頃、彼を恨みながらもぬくもりが恋しくて。

断ち切れない想いを抱えて、たびたびここを訪れた。




泣きながらひとり震えていた俺の想いがよみがえる。

絶望と悲しみを、恨みと怒りにすり替えて。

そのたび、どうにか立ち上がってきた。








でも、いま。

ここには。



「・・・和也」

「・・・智・・・」




俺が震えていれば、力強く、熱く、抱きしめてくれる人がいる。



だから。

もう一人で泣くこともない。
涙を受け止めてくれる人がいる。


悲しいと

寂しいと


言わせてくれる人がいる。







「俺・・・」

「うん」


「・・・まーくんに・・・」

「うん」






「・・・まーくんに、ありがとうって言いたかったな・・・」


「うん」






「『さよなら』も、言いたかった。



ちゃんと、言いたかった・・・



言いたかったよぉ・・・っ!」






ただ泣かせて欲しい。


あなたを想う悲しい涙は、最後にするから。

これからは、あなたの明るい笑顔を思い出して

俺も笑って生きていくね。





愛してくれてありがとう。

ほんとにほんとに、大好きだったよ、まーくん。




さようなら。