ガラガラと思いのほか大きな音が立つ重い扉。

 
「この扉、こんなに重かったんだ・・・」



そういえば自分で開けたことはなかったこと気づいた。
いつでも開いているか、まーくんが俺を抱えながら片手で開けていた。



「ふふ。・・・馬鹿力なヤツ」



扉を開けたその場所で、深呼吸。
目が慣れるまで、と言い聞かせて。



暗さに慣れてくると、奥の暗がりがうっすらと見えるようになってきた。


鼓動の速さを自覚する。

自分の足元を見て呼吸を整える。







「和也」


「え?」




振り返ると、智が体育館の入口から俺を呼んでいた。




「電気、つけていいって」


「・・・?」

「コレ、貸してくれた先生が、オレらが戻らないからって受付で書いた携帯番号に電話してきた。和也が出ないからオレにって。体育館にいるって言ったら、電気つけていいって言ってくれた」

「あ・・・」


来客のタグを持ち上げて智が言った。



「うん・・・えっと、つけていいんなら・・・」

「ん、まっとけ」




配電盤のスイッチを押す智の背中を眺めて



間もなく。






闇を強制的に排除するような


救いとも、痛みとも思える、光。




「まぶし・・・っ」



咄嗟に目を閉じた。





次に見る光景は、きっと、否応にでも俺を過去へ引きずり込むだろう。


それは確信。


でも、だからこそ、覚悟。



目を閉じたまま、智を呼ぶ。



「智」

「大丈夫、そばにいる」





足音が近づいて、そして、背後から抱きしめられる。


耳元で『ひとりで入れるか?』と。
俺は頷いて、深く、ひと呼吸。





心を決めて、そうっと瞼をあげる。







そこには、思い出とほとんど変わらない光景が待っていた。





あの日のイメージのまま。


ボールカゴ、得点板、跳び箱、マット、ロイター板。




何か思ったわけじゃない。
ただ、自然と足がすすむ。
中へと引き込まれる。





思い出す。


あの時を。




ここで


俺達は
初めてキスをした。
初めて触れあった。


彼の体温、匂い。
身体の大きさ、重さ、肌触り。
指に絡ませた髪のやわらかさ。
首筋を這う唇の温もり。
キスの甘さ。



お互いが欲しくて欲しくて、我慢できなくて。
でも、初めてだからどうしたらいいかわからなくて。
衝動だけでは現実の壁を超えられない、それでも、どうにか思いを遂げたくて、伝えたくて、夢中で与え、奪い合った。


まーくんと抱き合って、お互いの体温と鼓動を感じて。
『生きてる』って幸せを喜び合った。





「・・・まーくん・・・」



あんなに生きてることを喜んで

幸せだって、泣くほど幸せだって言った



あなたが。






「なんでいなくなっちゃうんだよ・・・」




ふと、耳によみがえる彼の声。






『にのちゃん、好きだよ』

『ごめんの代わりに、すきって言おう』




そんなふうに、ここで言ったまーくん。





そして。


最後に一緒に過したまーくんの誕生日。



『生きてるって感じだね』



と、泣きじゃくっていたまーくん。



あなたはどんな気持ちでそれを言ってたの?




ホテルからの帰り道。
別れ際の、最後の最後までずっと言ってくれてた。





にのちゃん、本当に本当に、すき。・・・だいすき。






ねぇ、まーくん。



その『すき』は。



・・・どっちの意味、だったの?