「二宮さん、今日は本当にありがとうございました。相葉ちゃんの想いをお伝えすることができて、なんというか・・・よかったです」


「風間さんにはご負担だったと思いますが・・・でも、本当に、ありがとうございました」

「いえ!ホントに負担だなんて全く思ってなくて、確かに気がかりではありましたけど・・・強いて言うなら使命感・・・だけど、うん、『友達』って言わせてもらえたら嬉しいかな。」

「風間さんとまーくんは、友達、だったんですね」

「はい、相葉ちゃんには『風間ぽん』なんて呼ばれて、彼もそう思ってくれたからこそ、手紙を託してくれたんだと思ってます」

「まーくん、友達多かったのに、ほんとうに誰にも何も言わないで『バスケのために海外に行ったみたいだよ』なんて言われてて」


あの頃、ろくに調べも確認もせずに信じてた。それはもちろん、そうする以外に出来なかったっていうのもある。誰も疑うことなく、中には薄情だと言ってたヤツもいた。でも、誰にも何も言わなかったからこそ、悲しませる人は少なかった。今なら、あの頃のまーくんらしいと、素直に思える。



「相葉ちゃんも『みんなにさよなら言いたいけど、悲しませちゃうから黙ってることにした』って。まだ高校生で、全部の悲しさを引き受けてひとりで最期の時間を過ごすなんて、本当に・・・なんて人なんだろって」

「あの人、そういうとこありました。抱えて頑張って、でもいつも笑顔だから誰もまーくんがつらい気持ちを抱えてるなんてわからなくて。・・・俺は、ちょっと察してたから、なんで話して貰えないんだろうって、寂しいなって思ってたこともありましたけど」

「それは恋人としてはとっても不安だったでしょうね・・・。相葉ちゃんは『にのちゃんには隠し事があるってバレてたかも』って言ってました」

「・・・はい、バレてました。まさか、こんな・・・こんな、命懸けの隠し事だとは、思ってなかったですけど」



抱き合っていたとき、ストレスかな、なんて思ってた記憶が蘇る。
そっか。
そりゃ、考えちゃったら萎えるよね、なんて。
風間さんの口ぶりからすると、きっと。

まーくんは・・・いろいろ、しゃべってるだろうな。

明らかに『恋人として』って、言ったし。
恥ずかしいけど、嬉しいと思っちゃう変な気分。




「まさに、命懸けの隠し事、でしたね。だからこそ、看護師として多少の負担は引き受けられるって立場もあって、なんでも話して欲しかったし、私自身も相葉ちゃんがとっても好きだったので、大切な友達として接してました」

「まーくんのそばに風間さんがいてくれて、よかったです」

「二宮さんにそう言ってもらえたら、私も今日まで相葉ちゃんを想ってきた気持ちが報われます。彼の大切な人である『にのちゃん』に絶対に手紙を渡さなくちゃって。それが、わたしなりの相葉ちゃんへの供養になると思ってましたから。それに、大野さんのような素敵な方と出会っていらっしゃることも知ることができました。・・・相葉ちゃんも安心だと思います」

「はい・・・そうだと、いいな」


きゅっと智の手を握れば、強く握り返してくれる。
その力強さがしあわせだった。

智が柔らかなまなざしで俺を見ていた。

きっと、今の俺は智を安心させてあげられている。
だってもう、俺の全部は智のものだから。
まーくんといたあの日々をちゃんと想える。
『愛した人がいたんだよ』って、智に言える。
そんな俺を智が愛してくれてるって、信じられるから。

智が風間さんに向き合って言った。



「風間さん、もしよかったら、今度アトリエに遊びに来ていただけませんか?オレがあなたにお礼をしたい」


「あ、それは、俺もぜひ!来てください!」

「お礼なんてそんな。でも、FREE STYLEのアトリエはものすごく興味があります」

「いつでもいいので、ぜひ」

「はい、必ず。たのしみです」





そうして、まーくんの手紙を、改めて読み返して。

まーくんが俺のために遺した言葉。



『すき、だいすき』



それは、どっちの意味なの?

今更わかるはずもない。

でも、ずっと考えていたい。


いつか、いつのまにか、思い出さなくなるその日まで。