「はじめまして。風間俊介と申します。」


「あ、二宮和也です。あと、」

「・・・大野智さん、ですね。存じております」



風間俊介、と、名乗る眼鏡をかけたその男は、如才無い笑顔と物腰の、小柄で温和な雰囲気のひと。

俺たちの向かいに座って、それぞれに目配りをして、ゆったりと丁寧に話す姿は、決して俺たちを騙したりからかったりするような人物には思えなかった。


とはいえ、俺としては浅からぬ想いでまーくんに会う、会いたいという気持ちをここまで繋いできたワケで・・・


俺は気持ちの方向性を決めかねていた。
怒りは不思議と湧いてこない。
とまどい、もあるが、なにより、なんでまーくんが来ない?という疑問に支配されていた。

しかし、風間さんのなんとも事情を抱えていそうなその様子から、直球の疑問をいきなり口に出すことは憚られる。



「そう・・・ですよね、ご連絡をくださったのも、FREE STYLE の雑誌記事がきっかけでしたもんね」

「はい。二宮さん、大野さん。本日はお時間を作ってくださいまして、本当に、本当に、ありがとうございます・・・」

「はい・・・」

「早速ですが、相葉雅紀さんのこと、を」

「・・・正直、風間さんがいらして、驚いているというか・・・失礼ながら、拍子抜けというか」



初対面、しかも簡単ではなさそうな事情アリ、とあらば、むしろ探る必要は無い。それは風間さんも同じように考えているらしく、率直な言葉で返してくれた。



「はい、もしかしてお怒りになるのでは無いか、と思う反面、相葉さんから二宮さんのお人柄を聞いていたので、きっとまずは事情を聞いてくださるだろうと思っていました」

「・・・ボクの話、しているんですか?」

「はい、それはもう、たくさんのお話を」



『想像よりずっと素敵な方でした』と付け加えて。まーくんはどんな俺を話したんだ、と、そわそわするような言い草だ。風間さんとまーくんって、友達なのかな。




「風間さん」

「はい」



智が柔らかく話しかけた。
その声色から油断をしていたが、智の言葉は一瞬で俺の心をざわめかせた。



「相葉雅紀さんは、なぜ来ないんですか?」




・・・そう。
なぜ、会いたいと連絡をしてきたまーくんが、ここに来ていないのか。


くっ、と喉の奥が詰まる。
智は俺が気になっていたことをさらりと、でも、誤魔化しようのない真剣さでしっかりと伝えてくれた。




「はい。それは、こちらをお読みいただけますか。私はこれを渡すように、相葉雅紀さんから頼まれていました」




そうして、淡い緑色の、表にまーくんの字で『二宮和也さま』と書かれた、シンプルな封筒を差し出された。



それは『すきだよ』から始まる、まーくんからの手紙だった。










■■■■■

にのちゃん



すきだよ。


だいすきだよ。

だから、この手紙を読む時は

絶対にひとりで読まないで欲しい。
手紙を託す風間には伝えておくから。
もし、誰もそばにいないなら

風間と一緒にいる間に読んでね。


誕生日。
一緒に過ごしてくれて、本当にありがとう。
俺の人生で間違いなく、最初で最後。

いちばん、最高に幸せな時間だった。
一生、永遠に、続けばいいなって思った。


薬指の痕は、まだありますか?
俺は毎日、にのちゃんを想ってキスをしています。
俺たちがあの時にできた、精一杯の誓いだったから。
18歳になったら結婚しようねって。
にのちゃんが先に18歳になるから待ってるよって言ってくれて

どれだけ来年の誕生日が楽しみになったことか。

でもその時の俺は、わかってたんだ。
多分18歳にはなれないんだろうなってこと。

夏に怪我をした時に、検査で病気が見つかりました。
若い人が発症する、足を切断するくらいしか方法がない。
そんな病気。
俺はその時点で、ほぼ治療はできない状態だったそうです。


だから、日常生活をとにかく維持する

そのことだけを最優先にしてもらった。

学校に行きたい、部活もしたい。

何よりにのちゃんと過ごしたいってお願いしたんだ。

自暴自棄になりそうな瞬間もあったけど

それより、俺が少しでも長く生きたい時間があるんだって。


隠してたけど、察しのいいにのちゃんだから。

心配かけたことあったかもしれないね。


最期にあんなに幸せな時間が過ごせると思ってなくて

一度味わったら死ぬのが本当に嫌になったよ。

勝手なもんだなぁと我ながら思う。

最期の時期はわかってるし

それを受け入れたからこそ

あの日を過ごせたのにね。


どうしたってもう治せないからって

家族も病院の人もみんなで

俺の最期のわがままを叶えてくれたんだ。


一生のお願いって言って

誕生日のお泊まりデートを親に頼み込んだら

めちゃくちゃ泣かしちゃった。

冗談にならなかったみたい。

にのちゃんには泣いて欲しくなかったから。


理由を話せなくて

黙って居なくなって

さよならを言えなくて。

そういうの、ぜんぶ。


好きだよ。


俺は毎日、にのちゃんのことを思い出してる。
記憶の中のにのちゃんと過ごしてる。
たくさんの思い出をありがとうね。
あと残り短い時間だけど、そのぜんぶを幸せに過ごせる。

ずっとずっと、にのちゃんを想っていさせて。


ありがとう。



にのちゃん、だいすきだよ。

雅紀