数日悩んで。
智にも相談をして。


会いたいと言ってきたメールに


『会いましょう。』


と、返事をした。



思い切って、という決断ではなく、そうしたいし、そうするべきだと、自然に思えた。

智はそれを喜んでくれた。


そして会いたいとは思うが、俺は今、大切な人がいて、その人も一緒でいいのなら、と、お願いをしてみた。


それには


『是非、ご一緒に』と。


さらには


『二宮さんに大切な方がいることがわかって安心した』とも。



そっか。

安心してくれたんだ・・・。


ふーん。



正直、複雑。



いわゆる『元カレ』に、しかも『俺を振った元カレ』に言われて、嬉しい言葉では無いのだな、と知った。そして、そんなふうにまーくんのことを『元カレ』だなんて、ちょっと、なんていうか、『過ぎた時間の中にいた人』と、改めてカテゴライズして・・・できて、いることに、俺自身が驚いた。



そう。

もう、終わった、こと。

まーくんとは、確かに熱い青春を過ごした。
でも、それはあの時間、あの時、あの瞬間、だからこその。

だからこそ、今の俺がいて、智がそばにいる。


そうして、過ごした日々を、ちゃんと積み重ねた先の、それが今なのだと。自分でちゃんと、思う。







まーくんと会う約束のカフェは、明るくて、静かで。
でも、静寂の気まずさのない、いかにも居心地のよさそうな。

絶対に待たれたくなくて、確実に自分が先に待っていたくて、約束の時間の1時間以上前に席に着いた。

智は笑って『和也が1番落ち着けるようにしよう』と言い、俺が早く着きたい気持ちに寄り添ってくれた。また、席に通されてコーヒーを飲みながらも尚、決して、会いたい気持ちが逸ってのことでは無いのだ、繰り返し言う俺に『わかってるから、大丈夫』と、隣同士で座ったカフェの光が柔らかく注ぐ窓際の席で、俺にキスをした。



「んなっ!ちょっと智!」

「なんだよ」

「なんだよじゃないよ、なんで・・・なんか嬉しそうなんだよ!」

「嬉しいだろ、和也にキスできるんだから」

「はぁあ?なに言ってんの!?」

「だから、愛してるヤツにキスができるって幸せなことだろ。だから嬉しい、だろ。なにがわかんねーんだ?」



智がさらっと言った『愛してるヤツ』は間違いなく俺。
そしてそんな俺にキスができて幸せで嬉しいのだと。

智の智らしい在り様に俺は妙に安心してしまって。
そのおかげで俺の変な緊張感も薄れていた。
こうして智に守られている。
それを素直に受け入れて甘えている今が、心地よくて。

やっぱり俺も、幸せなんだ。





そして。


俺たちの前に姿を見せたのは、まーくんでは、なかった。