首筋を柔らかく食む感触が心地いい。
智の鼻先が肌をなぞりながら、その余韻を追いかけていく唇の温かさを感じる。時々強く吸われて『跡がついたな』と思うのも悪くない。
うつ伏せになっている俺を、智は丁寧に愛撫していく。
耳を噛みながら舌を添えていく。時に唾液をすする音をさせるのが頭の中まで犯されているようで、そのまま下半身への刺激として伝わっていく。
首筋、うなじを舐めて背中へ。
舌を這わせた後が唾液で濡れて冷たく感じる。
またそこも、智があいしてくれた場所なのだと、見えない場所の温度が、俺を満たす。
肩甲骨を甘噛みされるのが好き。
少し歯を立てるやり方は、そわっと肌を粟立たせる。
そうしている間も、ベッドと俺の身体の間に差し込まれた手は、器用に胸元を弄んでは、わき腹を撫ぜている。
「んっ、はっ・・・はァッ・・・あぁ、さと、」
ビクビクと震える身体を誤魔化すことなく、与えられる快感を受け入れていれば、中心のソレは欲望としてカタチを持ち始め、もどかしくシーツにこすりつけるように腰が踊ってしまう。
その時を逃すまいと智は素早く俺の腰を引き上げて、双丘を両手で鷲掴みにして割り裂き、そこで待ち構える潤った蜜壺の入口へ舌を伸ばした。
「やぁッ・・・やっ、アッ・・・ぁんっ」
意図せぬ刺激に飲まれたくないが、声を出すことを躾られた俺は、否応にも啼き出す自分を止められない。
快感を捕まえたいのか抗っているのか・・・
そのギリギリの俺を見て智は満足そうに
「カズ、気持ちいいか」
と、聞くともなしに言う。
優しく温かな唇は、背骨を一つ一つ数えるように辿っていく。
智は俺にたくさんの跡を残すことを楽しむみたいに、強さを変え、角度を変え、俺の肌に隙間なくキスを落とす。
まるで俺は智が扱う金属の素材になったようだ。
智のキスひとつが、槌目のひとつ。
そうして俺に智の想いを刻まれていくのかと思うと、ふと、胸が震えるような感覚に陥った。
息が浅くなる。
うつ伏せだからそもそも深くは吸えないが、それでも。
鳩尾の少し上がぎゅっと締まる。
はくはくと呼吸が浅くなって、また、目頭が痛い。
「カズ・・・和也、また泣いてんのか」
「ん・・・なんかさ・・・なんか、わかんないけど・・・」
「わかんないけど?」
「・・・幸せ、みたいな・・・気がして」
そう伝えたら、涙が止まらなくなった。
身体を震わせて枕を抱きしめる俺を枕ごとひっくり返して、それを剥ぎ取り
「泣く時は枕じゃなくて、おれに」
そう言いながら、覆い被さる智の体温があまりにも幸せすぎて、あの高校時代、『生きてるって感じだね』と抱き合った思い出が俺の中から引きずり出される。智の熱い身体に遠慮なくしがみついて、俺は声を上げて泣いた。
あの、17歳のたった一瞬の。
まーくんと過ごした、甘くて甘くて、熱い毎日。こどもだったけど、まさに全身全霊で彼を愛していたと言える。俺は少なくとも、あの時に感じた『ずっと一緒』の想いは本物だった。
その想いの行き場を失い、焦がれて焦がれて・・・叶わないことなのだと、そんなものは無いのだと、安心することを許さなかった自分は、もう疲れてしまったのだと思う。
それ以上に、智の想いをこれ以上信じられない自分を変えたかった。
甘えたい。
寄りかかったら、絶対に抱きしめてくれる、優しいキスをくれる、そのひとが今、ここにいる。
俺は独りなのだと、自らナイフを喉元に突き付け、進むことを拒み続けるのはもうやめたい。
自分を傷つけ続けるのはもう、ここまで。
いいよね。
冷たいアスファルトに座り込んだあの時の俺。
もう、立ち上がれるはずだよ。
手を引いてくれる人が、ここにいる。
「さと、し・・・ッ、さと・・・そばにいて・・・智と離れたくないよ・・・」
「カズ・・・」
「智、離さないで、俺をひとりにしないで!」
「やっと言ったな、カズ。誰が離すかよ・・・ずっと、ずっとおめぇのそばにいさせてくれよ」
はっとした。
それは、執着とも執念とも言える、想い。
「・・・さとし、ずっと・・・って、いつまで・・・」
「え?」
どうしても確かめたい。
智の頬を両手で包んで、目を合わせる。
真っ直ぐに俺を見る深く穏やかな瞳の色。
「ずっと、って。いつまで?俺、いつまで智のそばにいられるの?」
「和也、頼む、そんなこと聞くな」
「なんで?なんで聞いちゃダメなの?別れる日がわかってたら覚悟だって出来るんだから!」
「そんなの!そんな日は来ない!・・・ずっとは・・・ずっとってのは・・・死ぬまで、一生ってことなんだよ!」
そう言って、今日一番の熱いキスをしてくれた。