一緒に暮らす。


それは、俺にとって、嬉しい事なのだろうか。

大野さんにとって、しあわせなのだろうか。


大野さんは「ずっと和也と一緒にいたい」と言ってくれた。


『ずっと』・・・って。
いつまでをいうんだろう。

どれだけ強く深く想っても、人の気持ちは変わる。
他人の気持ちはわからない。


俺は、その『わからない』を、経験している。



「今日を積み重ねて明日がある」と、誰かが言ってた。


だけど。

その積み重ねがむずかしいんじゃないか・・・。


明日があるって当たりまえに思ってたその日が来ない、あの絶望。
どこにも行き場のない想い。
息をするたびに鳩尾に鉛が沈んでいくような感覚。


信じていた「明日」が来ないことを認めたくなかった。
俺にとって「明日」の意味は、イコール、2人の未来
・・・の、はずだった。


明日は当たり前には来ないしことを知ってしまった。
あると信じる強さも持ち合わせていない。




・・・ならば、刹那。

いま、目の前に与えられた、時間、安心、快楽。
それだけで。

未来に期待したそれらが与えられなかった時。
何故だ、と、相手を、自分を責める。恨む。


そんな毎日はもう嫌なんだ。


俺が受け入れるのは『ある』もの。
それだけ。


信じるとか、そういう曖昧なことじゃなくて
ただ、そうなんだ、ってそれだけを受け入れる。

大野さんは俺と一緒にいたいと言った。
俺も、大野さんのそばに居たい。

今わかっている、そのコトだけをみていればいい。







正月の雰囲気もそろそろ落ち着いてきた。
この週末が終われば、また仕事が始まる。


2人で軽く夕食をとりながら、大野さんは少しだけお酒を飲んで、俺は黙々と食べる。この静寂は気まずさではなく、ありのままの心地よさ。こんなに穏やかに過ごすせるなんて想像もしていなかった。


ひたすらあの凍る想いに抗って怖がって目耳を閉じて。
どうにかやり過ごす日々を覚悟していた。

それがどうだ。
ほんの数週間のうちに簡単に気持ちが変わる。
俺自身でも呆れるほど。

俺を震わせる冷たい影は、手触りのいい毛布で隠してしまえばいいのだ。




「大野さん、俺、あした、自分の部屋に帰ります」

「・・・ん」

「それで、月曜日から仕事なので」

「長く休んだあとのシゴトは余計疲れるぞ~」


大野さんは茶化すように言った。


「はい、きっとものすごく疲れると思います。だから・・・ここに帰ってきていいですか?」

「うん・・・・・・えぇっ!?」

「ちょ、こぼしてる(笑)」




キッチンへタオルを取りに向かう俺を追いかけてきたかと思ったら、強く引き寄せた身体を無理やり反転させられて胸元に押し込められた。



「大野さん、くるしい」

「我慢しろ」

「・・・もぅ」


ぎゅっと抱きしめられて大人しく胸元におさまっていれば、鼓動の速さを感じて、口角があがる。



「帰ってくるんだな?ここに」

「はい」

「・・・いつまで、いる?」

「それ、聞いちゃいます?」

「あー、すまん、いや、そういう意味じゃなくて・・・うん。いつまででもいいんだ」



大野さんの背中に腕を回して、肩に頬を乗せて深呼吸。



「大野さんの匂い、安心する・・・」



ふう、と呼吸を整えて。
自分が一番わかっていない、それを言う。




「ずっと、いたいです」




ずっと、って、いつまでなんだろう。