「『FREE STYLE』・・・ここね」
俺はひとまずカタログを片っ端から車に積んで、大野さんのアトリエを訪ねた。
引き戸になったガラスの扉を少しずらして、中の様子をうかがう。
「こんにちは、二宮でーす・・・。大野さーん、いらっしゃいますかー?」
静まり返ったアトリエ。
施錠されてはいないし、表のライトもついているから不在ではない・・・?
「これ、はいっちゃっていいんだよねぇ・・・失礼しまーす・・・」
アトリエはガラス扉が採光となって、やわらかな明るさで満ちていた。
ほとんど無音。
空調がわずかにうなる程度で、それがなぜか心地よかった。
2畳ほどもありそうな大きな無垢材のテーブルには品のいいサーモンピンクのガーベラが1輪。
その1輪挿しもきっと彼の作品なのだろう。
テーブルの上には「カタログ」と手書きされたアルバムが無造作に何冊かおいてあった。
「・・・あぁ。こういうこと、か・・・。」
何気なく中を開けば、大野さんの作品であろうアクセサリーを身に着けてしあわせそうにしているたくさんの人の写真と、そのアクセサリーの一つ一つがページ毎にまとめられていた。
「ふふ、みんな、すごく似合ってる」
そして、無意識に左手の甲を口元に寄せていた自分に気づく。
「チッ・・・またやったな」
「なに悪態ついてんだ?」
背後から声を掛けられ、振り向くと、優しく笑った彼がいた。
「・・・っ!!お、大野さん!すみません、勝手にお邪魔してしまって」
「いや、オレも奥にいたから気づかなかった、すまん。いらっしゃい」
「えっと、本日はお問い合わせいただきまして、ありがとうございます。改めまして、二宮です。ご存じの通り、まだ入社して間もない新人ですので、もし何かご不安があればいつでも仰ってください。すぐに担当を変更いたしますので・・・」
「いやいやいや、不安があったらちゃんと言うから。だから、担当変更、じゃない方法で一緒に解決してくれよな」
「・・・は、はい!宜しくお願いします!」
昨日の夕方、学校で初めて会ってから今に至るまで、まだ大した話はしていない。でもきっと、この人のためになら頑張って仕事できる・・・ってなぜかそんな風に。
そしてそんな自分に意外にもワクワクしていた。