「二宮ー、オオノ様から、外線4番とってー」
「はいっ・・・って、え?オオノ様??」
翌日。
朝のミーティングを終えて、今日のルート営業の行程を確認していたところへ。
オオノ様で心当たりがあるのって・・・昨日の、あの、先生?
「はい、お電話代わりました、二宮でございます」
「おぉ、にのちゃんせんぱい?」
やっぱり。
「・・・昨日は、授業後にお邪魔させていただきまして、ありがとうございました。」
「あは、どういたしまして」
「・・・・・?」
「・・・」
なんか用があって電話してきたんじゃないの?
微妙に話の間合いが合わない。
やりにくい。
「・・・大野様、本日ご連絡くださいましたのは・・・?」
「うん。うちのアトリエのネット環境の確認してもらいたいって言ったら、二宮さんに担当していただけるかなって。あとついでに、パソコンの買い替えの相談とか、最近の3Dプリンターとか、そういうのを紹介してもらえたら嬉しいんですが」
おおっと、急にまともな商談の流れ。
どうせふにゃふにゃ笑って『ちゃんと仕事してんのかと思って』とか、からかいの電話かと思った。
・・・って、おい、俺。
なんで、昨日ちょっと話しただけのこの人に、こんな勝手に妄想した?
電話越しに動揺が伝わりそうで、意味もなく居住まいを正して。
「もちろん、喜んで承ります、ネット環境と、新しいパソコンのご提案、3Dプリンターですね」
「一度、アトリエに来てもらえますか?」
「はい、大野様のご都合がよろしい日程でお伺いできれば・・・」
「んじゃ、いまから来られる?」
俺の声をさえぎる勢いで『いまから』と。
その嬉しそうな声に、また、胸騒ぎ。
声色だけは元気に取り繕って定型通りの営業トーク。
「はい、ぜひ、伺わせていただきます!これまで大野様は弊社へご相談頂いたことはございましたか?」
「いや、この街に事務所立ててまだ半年くらいだから」
「さようでございますか。では、頑張ってご提案させていただきます!」
新人は『がんばります』と言えと言われてるから、教育されたとおりに言えば
「・・っはは!・・・おめぇ、可愛いなぁ。あんま無理しなくていいぞ」
と、なぜか笑われた。
でも、それはからかいではなくて、本当に、無理するなって、言ってもらえたみたいで・・・やっぱり、ちょっと、息が弾んだ。