相葉雅紀。
高校の同級生で、恋人だった男。
彼は太陽みたいに笑うヒトだった。
そのくせに、ふと、突然見せる、孤独。
高2で同じクラスになってすぐの印象は、とにかく明るくてスポーツマン。バスケが大好きで、勉強はそこそこ、の、まさに青春を満喫!という彼だった。
そのころの俺は、運動部、文化部問わず、様々な部活から依頼を受け、データをもとに弱点を洗い出す、というコンサルタントの真似事のようなことを楽しんでいた。
そこへ彼が「フォームを分析して欲しい」と声をかけてきて、以来、部活や試合を見に行ってはデータを取る、という日々を送っていた。
いつの間にか、2人で一緒にいることが当たり前になっていた。
明るい笑顔と、朗らかな笑い声。
なのにある日気づいた。
時折、急に真顔になる掴めない雰囲気。
一緒に過ごしていたからこそ気づいた彼の別の顔。
それを見せてくれることに喜びを感じてた。
そして彼も何かにつけて俺を大切に扱ってくれていた。
いつでも俺を気にかけてくれていた。
並んで歩く時や食事をしている時、授業中さえ、ふと彼を見れば、かならずと言っていいほど目が合った。
目が合えば、右頬だけで笑うそのやり方が好きだった。
何もかもが俺には魅力的で、彼の目に自分が映っていることがとにかく幸せだった。
「にのちゃん!オレ、レギュラーなれたっ!見て!!」
「わぁ!まーくん、かっこいい!似合うー!おめでと!」
「ありがとっ!にのちゃんがいつも応援してくれるからだよ」
深緑のユニフォームがとてもよく似合っていて、彼自身も『緑は葉っぱ色、オレのラッキーカラーだぜ!』と満足げに言って、周囲を笑わせていた。
俺は彼のユニフォーム姿に、汗で濡れた胸元に、抱きしめられるのがたまらなく好きだった。
練習のあと、自主練をしているのを待って一緒に帰ろうと約束していた・・・初夏のある日。
お互いに気持ちがあることはもうわかっていた。
隠す必要もなかった。
俺たちは初めてお互いに触れ合った。
体育館は明るく清潔で。
部活後特有のしめった空気が漂っていて。
ボールがバウンドする音、キュキュっと響くスキール音。
彼は黙々とシュート練習をしていた。
スリーポイントを打つ。
ボールが彼の手から離れ、弧を描いてゴールへと向かう。
緩やかなボールの回転が見て取れて、その間、体育館は無音。
放たれたボールはリングに触れず、ネットを揺らすだけ。
彼はまた黙々と、今度は散らばったボールをカゴへ集めていた。
一つ一つ、丁寧に。
拾う手はまるで、子猫でも抱き上げるかのように優しかった。
俺はおもわず彼の顔を見る。
そんなに愛おしそうに触れる彼はどんな表情をしているのか。
そしてその表情を見て、思う。思い出す。
俺を見る目を。
甘く甘く、見つめる眼差しを。
ユニフォームの裾を腹が見えるのも構わずに顔まで上げて汗をぬぐっている。そして、あらわになっている上腕。
左肩にひときわ肌の色が濃い部分があって、一度目にしたら、忘れられない、印象的なそれは、まるで、花弁が散っているような、蝶が集まっているような。
・・・触れたい。
その肩に。
痣に。
汗でぬれる首筋。
美しく肉付いた嫌味なく割れた腹筋、そしてすらりと伸びて力強く床をける脚。今は見えていない隠されているそこにどんな熱を孕んでいるのか。
滑らかでしっとりした肌触り、湿り気を帯びた・・・
思わず想像して、腹の底がうずく。
俺は割と色が白く小柄で中性的な見た目が手伝って、「にのちゃん」とやたら可愛らしいあだ名で呼ばれ、性別問わず、友人からのスキンシップは多いほうで、いちいち反応してはいられない。
・・・が、そうはいっても年相応のオトコの事情だってある。必要に応じてそれなりの処理はするが、それはあくまで処理。人の肌に触れたいと思ったことなど、これまで一度もなかった。
そんな俺が、彼の汗に濡れた肌をみて、初めて人肌に、彼に、触れたいという欲求、湧き上がる情欲を抑えきれない。
誰でもいいわけじゃない。
俺は相葉雅紀に触れたかった。