「・・・まー・・・くん・・・まっ・・・」


「和也・・・もういい、ほら」



「あ・・・、やだぁ・・・っ・・・まぁ・・・」



「魘されるなら起きちまえ、な?」


「んー・・・っ」




薄く目を開ければ、夕闇色で染まった部屋。

おあつらえ向きに外からカラスの声が聞こえていた。



「・・・起きたか?」



柔らかく、それでいて心配そうな俺を呼ぶ、愛おしい声。

焦点があわないまま、左肩に感じる温もり。
胸元には見覚えのある、頼もしい手。

トン…トン…トン、と、軽くゆったりしたリズムで胸元を叩く手。

・・・安心する。



おもわずその温もりに擦り寄って

彼の匂いをめいっぱいに吸い込んだ。



フー・・・ッ、と深く息を吐いて、やっと口にする。




「さとし・・・俺、どうしたの」




いきなり上手く声が出る訳もなく、掠れた声がひどく弱々しくて、自分になにか予想外のことが起きたのだと悟った。


智は右肘をついて頭を支えながら、俺の顔を左から覗き込んでいる。一緒に横になっている彼に、今の自分がどんな状態なのか尋ねてみた。





「カズ・・・具合は?」

「ん・・・ちょっと頭痛いけど、・・・でも、大丈夫」

「気持ち悪いとかは?」

「ないよ、平気。」

「そっか・・・良かった」


そうして智はオレをぎゅっ・・・と、ゆっくりだけど力強く抱きしめた。心地好い圧迫感に安心して、目を閉じる。



「お前・・・うなされてた。夢、何見てた・・・?」


夢。

ゆめ、か。



そうだ、夢を見た。



あの日の、現実の。


最悪な記憶の、本当にあったこと、の、夢。




「ん・・・わかんない・・・忘れた」



智にはそう返してみた。




でも。


「和也・・・『相葉雅紀』って・・・誰だ?」


予想はしていた。

聞かれるって。

わかっていても、鼓動が早くなる。


・・・そうだよね。
誤魔化されてはくれないよね。
だんだんと蘇るさっきの出来事。




届いたメール。



差し出し人は『相葉雅紀』





「あいばさん・・・」

「うん、おまえが倒れる前に見てたメールの送り主」

「・・・ッく・・・うぅ・・」


意図せず喉の奥から込み上げる熱い固まり。



吐き出そうとすれば嗚咽に変わる。
目の奥にジンと痛みが走って、涙を堪えようとすれば痛みが増す。


「抱えて泣くくらいなら、全部吐き出せ。オレがそばにいるから」


嗚咽を堪えるあまり、声が出せない。
智に縋って泣くのも嫌だけど、今はそれしか方法がない事がもどかしい。


声を殺して泣く俺を、智はその後、何も言わずに俺がまた眠るまで、辛抱強く抱いていてくれた。