「しょーちゃん、こわかった?」
「うん、これ、マジでやべぇヤツだった」
「どんな夢だったの?」
夢の成り行きを話したところで、雅紀は頬をふくらませている。
「しょーちゃんの夢にオレいなかったんだ」
「いやだから、雅紀がいないことが怖いって話だろって」
「翔くんみたいなロマンチックな現実主義者は危ないんだな」
「俺、ロマンチック?ってか、危ないってどういうこと?」
「翔くんは精神的な繋がりとか、仲間の存在とか、見えないモノを大切に思ってるじゃない?見えないモノ、なのに、なにか失ってるって、わけわかんないよね。で、怖いものが、オバケ、とか、ホラーの怪物とか、そういうフィクションに近いものなら現実じゃないってすぐに気づいて明晰夢として過ごせるけど、なまじっかリアリティがあることだと、現実と夢が混ざるからさ。かなりキツかったでしょ」
そりゃぁ、もう、とんでもなく。
精神的にかなりのダメージ。
何かわからないけどものすごく大切な何か。
それを失っていることに気づいたのがとにかく辛かった。
「しょーちゃんの怖いものって、嵐が嵐じゃなくなる、5人じゃなくなること・・・なんだね」
そう。
5人じゃない時点で、もうそれは、嵐じゃない。
だからどれほどリアルな夢だったとしても3人の状態で『嵐』とは言えなかったんだ。強烈な違和感と、タブーにも思える感覚。
「もうこんな思いしたくねぇなぁ・・・」
本音。
それは、俺の、改めて確認した、本心。
「大丈夫、貝の毒には依存も後遺症もないから、さっきの酸っぱいやつが飲み込めたなら解毒されてるよ。アレ、毒が残ってたらものすっごい苦くて感じて口に入れることもできないんだよ」
「ん、そっか。そういうことなら、ひと安心か・・・。もうあんな夢、絶対に見たくねぇよ・・・」
いま俺のなで肩の角度は相当になってるはずだな。
寝てただけなのに、やたら疲弊している。
そんな俺を雅紀の熱い身体が優しく包んでくれた。
「オレたち、5人で嵐だから。で、オレとしょーちゃんは、ずっと一緒。」
雅紀が抱きしめてくれて、背中をなぜてくれる。
俺は応えて広い背中に腕を回す。お互いの体温がじんわりと馴染んで心地いい。雅紀の首筋に頬をつけて肌の温もりを感じているうちに、やっと、カラダの力を抜くことが出来た。
「ほらほら、そこでラブシーンするなら帰ってやれー笑」
そうだ、ここは智くんのとこ。
「ごめんごめん、にーさん、ありがとね。なんか、考えさせらせたわ・・・って、おい?雅紀?」
「ん・・・」
「あー、寝ちゃってる、相葉ちゃん、ずっと翔くんのこと心配してそばに居たから寝てないんだよ。安心したんだなぁ」
「まさきー・・・、ほら、帰る準備しなきゃだろ?」
「ん」
「ん、よし、いいこ。ほら、とりあえず立てるか」
うん、と、頷いて返事はするが、ほとんど目を閉じたまま。
俺に身を任せて動く雅紀を愛おしく思う。
「そーやってくっついてる2人を見てるのはいいもんだなぁ・・・」
「そ?」
「うん、なんか、ほほえましい」
「そんなもんかなぁ」
「そんなもんだよ、オイラもちょっと恋しくなったな」
「あぁ、あの天邪鬼、誘ったけど『虫が』とか『船が』とか色んなこと言って結局ねぇ・・・本音は寂しいんだろうにな」
「今度は潤もカズも一緒に来られる時に集まろうね」
と、目を覚ました雅紀が智くんへ次の約束を取り付けていた。
「そうだな!潤が帰国したら、そっちいくわ」
「うん、ぜってーだかんな!」
「わかってるって」
そろそろ空港へ向かう時間。
名残惜しいが、またすぐに会える。
「2人ともカラダ大事にしろよ」
「リーダーもね!」
「潤とニノのスケジュール確認して連絡するね」
「そのへんは翔くんに任した!」
またね、と握手をして車に乗り込み、エンジンをかければカーステレオから聞こえる、あの曲。爽やかな風と空と、智くんと雅紀の歌声から始まる優しい音楽に身を任せながら、次に集まる時はそう遠い日の事じゃないな、と感じていた。
おわり。