「なんだよ、『お許し』って。なんかあんの…」

「ふふ、まぁ、しょーちゃん、座って?」



俺の質問に答えることなく、相葉くんからソファーへと促された。



俺の部屋、俺のテリトリー。
日常の風景の中にいる。

そこに相葉くんという異常な違和感。

だがそのモトである相葉くんは

違和感を覚える方がおかしいのかと思うほどに
まるでここに住んでいるかのような当たり前の振る舞い。


積み上がった本や書類をわけて

ざっと向きを揃えて束ね直して崩れないように。

ソファーに掛けられたジャケットはハンガーに。

山になった洗濯物は洗い終わっていると判断したのか

手際よく畳んで座るスペースを確保する。


ときどき

「これ、こうでいい?」

とか

「後で部屋にしまいなね」

とか



物凄くかっこよくキメた彼がやたら生活感のあることを言う。



その度に、ああ、とか、うん、とか答えはするけど

それは返事とは到底言えない、ただの反応。


どこか遠くの景色を見ているように
俺の部屋で淀みなく動く相葉くんをぼんやり眺めていた。




俺を座らせた彼は、持ってきた荷物のひとつ。
手のひらに乗るサイズの小さなショッパーから
そこに入っているであろう予想できうる当然な

赤いベルベットの小箱を取り出す。


そして、キッチンのカウンターに置きっぱなしになっていた

小さいけど明らかにホールのケーキが入った箱をみて


「ケーキ。冷蔵庫に入れるね。」



そんなふうに、また当たり前に言って、その通りに。
酒とキムチだけの冷蔵庫はケーキの箱を入れるのは余裕で。



俺はもう相葉くんが何を考えているかわからない
いつも予測不可能な彼だけど

今はもう遥かな宇宙人の相葉くん。



「俺、相葉くんに攫われんのかな…」



勝手な思考の流れに任せて口走ったそれは

思いのほか彼を喜ばせた。




「え!しょーちゃんのこと、攫ってもいいの!?」

「どこにだよ」

「えー…ハワイ、とか?」

「ハワイなんだ」





そんな無意味なやり取りのうちに
相葉くんはソファーに座る俺の前に跪く。


そして


さっきの小箱をあからさまに『それらしい仕草』で
俺に向けてパカッと開いて。


甘い声で。

「しょーちゃん、だいすき。オレと出会ってくれて、ありがとう」



そこに入っていたのは、カフスボタン。
深紅のガーネットと落ち着いた青色のターコイズが飾られた。
映画で見る宝物みたいだと思った。
それをまるで、指輪を贈るような。

そんな演出で。




「これ、うけとって?」


似合いすぎて冗談にできない。


なんて真っ直ぐな。

これほどまでに真っ直ぐ。
それでいて、予測不可能。
俺にとってはまれに宇宙人。

そして、幸せのミラクルメイカー。




こんな彼だから俺は。


ついていけない、というよりは、ひたすら愛おしい。
ただただ好ましい存在。



とはいえ、気持ちとアタマがまとまらない。
置いてけぼりは勘弁して欲しい。



「…あのー、相葉くん?」

「なぁに?」

「あのさ、いろいろちょっとぶっ飛びすぎて…俺、今の状況、わかんねーんだわ」

「ん?どのへんがわかんない?」

「初めっからだわ!」


思わずツッコミみたいな勢いで言ってしまったけど
それは心情的には正直なところで。




そんな俺を…

甘くて甘くて溶けそうなくらいの眼差しで相葉くんは。



「はじめから、か。ふふ…じゃあ、やっぱりありがとう、ずっと、やめないで、この世界にいてくれて」



俺を見つめてそう言った。