「うん…なに?」


招き入れた手前、話を聞かずに追い返すわけにはいかないが
俺はいま、相葉くんと2人になったことを後悔していた。


何を言われるのか。

察しているような、そんな気持ちも否定できず。

と、同時に、自己防衛。

現実のことは、見ないフリをする。



「用事、あるんなら、巻きで聞くよ。手短に要点だけ言って?」


とにかく早く解放されたかった。
相葉くんから感じる、ピリッとした圧。
あまりそういうのを表に出さない彼だ。
このあとの、誰かとの予定で平常心ではないのだろう。

誰か。

相葉くんの気持ちをこんな風に乱す、誰かがいる。



「しょーちゃん、相変わらず察しが悪いね」

「…は?」

「違うな、オレのことだけ、わからないフリしてるんだよね」

「なに…?何言ってんの?」

「何をそんなに慌ててるの?オレのために時間、作ってくれたんでしょ?」

「いや、それは、俺はそうだけど、予定があって早く行きたいのは相葉くんの方でしょ」

「行くって、どこに?」



躱される疑問。
からかわれているかのような気持ちになって

思わず声を荒らげた。


「なぁ、話ってなんだよ!こんなとこで俺と無駄に喋ってないで、さっさと花とか、ケーキとか、持って行ったら!?別に話なんか今じゃなくたっていいんだろ?」


…ダメだ。



相葉くん相手に何言ってんだよ。
俺はいつだって相葉くんを前にすると余裕を失う。



わかってる。この感情。

これは。




「ねぇ、しょーちゃん、それ、やきもち?」

「…ッ!」

「図星、でしょ?ふふ、嬉しい。」

「んだよ、やきもちって、そんなん、相葉くんに…」

「オレなんかに、やきもち妬かない?ほんと?ほんとにそう思ってる?」

「だって、おかしいだろ、なんで俺が相葉くんにそんな…」



刹那。




「しょーちゃん」






俺の言葉を遮る。

しっとりとした、いつもより少し低い、声。
俺の好きな、彼の声。




返事をしない俺に、もう一度。



「しょーちゃん」






「…なに」

「しょーちゃんは、オレのことが好きでしょ?」

「…な…、なにいって、ん、の」

「だから、しょーちゃん、オレのことスキでしょって。」



突然突きつけられる本音。

しかも隠していた、自分自身の。




…そうだ。



そうだよ。

俺は…相葉くんが。

だけどそれは、俺は認めてない。
認められない。
だって認めたらもう。


相葉くんから視線を逸らして

テーブルに広がった書類の角をむやみに見詰める。



沈黙をどう理解したのか、してないのか。

俺にはさっぱりわからないが、なおも相葉くんは続ける。






「オレも、しょーちゃん、好きだよ。だから、大丈夫。」


「大丈夫…って、何だよ。何が、大丈夫なんだよ…」



言っている最中
相葉くんが無遠慮にスマホをみる。
そして、画面から俺を上目遣いに見て、言った。



「お許しが出たよ」




言って、右の頬だけで笑う。



またこの人は…。


なんの事だかさっぱり分からない。