「ずっと、伝えたいことがあったんだ」
相葉くんからそんなふうに
やたらと神妙に、そして、慎重に。
突然、家に行ってもいいか、と連絡が来て。
仕事で会うこともない
わざわざの時間を取らなければ
ゆっくり話もできない
それはお互いに
忙しいせい、ということと。
忙しいから、ということで。
会えない言い訳を。
会わなければ会わないで。
日々は過ぎていってしまうものなのだ、と。
そんなある日。
「伝えたいこと」
一体何を言われるのかと、流石に身構えた。
「いらっしゃい…悪い、相変わらず片付けは」
「いいよ、そんなの、オレだもん」
そう言う相葉くんは明らかに『特別な日』の装い。
品の良いアイスグレーの三つ揃え
白いドレスシャツに細やかな織りの入ったタイ
セットされた髪を右の耳にかけた横顔に思わず見惚れた
そんな彼が。
花束に、ケーキ。
アクセサリーでも入っているような小ぶりのショッパーを携えて。
「なに、ずいぶんと、大荷物じゃん」
「そ?」
と、とぼけているんだか、逆に誤魔化す気がないのか。
相葉くんはそわそわとスマホの様子を気にしていた。
「相葉くん、このあと、予定あんの?」
「んー、相手の返事次第、かなぁ」
曖昧。
相葉くんにしては珍しい。
…あ、なにか、相談、か?
この荷物
──というよりは明らかにプレゼント──
を渡す相手、の。
面白くない。
何故か、そんなふうに。
相葉くんが誰かを想って
俺から気を逸らしている。
それに、やたらと苛立ちを感じた。
「んだよ、用があるなら今日じゃなくたって良かったじゃん」
この気持ちをうまく理解できなくて。
思わずつまらないことを言った。
ふ、と。
相葉くんが俺の目の前に立つ。
散らかった、俺の部屋。
ソファーには洗濯物が山積み。
テーブルは本と資料に占拠されている。
いつもの光景。
いまはまだテレビもつけず、音楽もかけてない。
殺風景な俺の日常。
そこに、なぜか相葉くん。
相葉くんが来るならばと
少しはまともにしておきたかったが
そんな考えもどこかシラケた思いで消し去った。
俺の部屋がどうであれ、相葉くんには関係ない。
静まり返った部屋。
雑音が聞こえそうなほどに散らかっていて。
なのに、静寂。
そして、目の前には。
「今日オレは、しょーちゃんに用があるんだよ」
俺を真正面から見据えて、相葉くんが静かに言った。