弟たちが部屋から出ていったあと。
キッチンからは二郎が用意した晩御飯のメニューを袋から取り出しては盛り上がっている。三郎、四郎、五郎はそれぞれの感想をあれこれと言い合い、笑い声と驚きの声で賑やかだ。
幸せの喧騒を遠くに聞きつつ。
ここには静かに時が流れる。
「兄さん」
「・・・」
「寝てるの?」
「・・・」
「たくさん寝られるのは健康な証拠だ・・・みんな騒がしくてごめんね。アイツら兄さんと一緒にいたくて仕方ないんだよなぁ。許してやってよね。」
そう言いながら
本当は誰よりも二郎こそが一郎と話がしたい。
長男の不在時に、この家に、この兄弟に
何があったか、なかったか。
そんな時、彼はどこでどんな風に過ごしているのか。
「ねぇ、兄さん。俺、たくさん聞いて欲しいことあるんだよ。同じくらい聞きたいこともね、たくさん。・・・俺だけじゃなくて、三郎も、四郎も五郎も、きっとそうだよ。」
安らかな寝息を立てる一郎を眺めて
ぽつぽつと、独り言のように。
向こうの部屋から二郎を呼ぶ声が聞こえる。
「寝るのに飽きたら、起きてきてよね。こっちは準備できてるから。・・・ゆっくりでいいからさ。」
そう言って
まだ無理に起きてこなくてもいいように
静かに部屋を後にする。
いつでも俺たちの声が届くように。
少しだけ、部屋のドアを開けたままにして。