「兄さん、開けるよ?」
と、声をかけて返事がないものだから、そっとドアを開ければそこは、二郎にとっての幸せが詰まった空間だった。
相変わらず寝ている一郎。
その横で目を覚ましてはいるもののベッドから動かず、うつ伏せたまま肘で上半身を支えスマホでゲームをする四郎。三郎と五郎はお互いに頭を寄せあって絶妙なバランスで倒れずに座ったまま寝ている。
「じろーちゃん、おかえり、思ったより早かったね」
「そりゃ、みんなが腹減らしてるなら急いで帰ってくるよ」
「ふふ、ありがとうございます」
一番に目を覚ました四郎が三郎と五郎がここで寝ていることに気づいた瞬間、二郎に『晩御飯はつくれないとおもう。』と、2人の寝ている様子を写真に撮って送ったのだ。その写真は、一郎の横顔越しに2人の後頭部が並んでいるもの。この写真を見るなり二郎は自分のとるべき行動を理解した。
三郎から甘え(?)られ、四郎から癒しの写真を送られてきた二郎は事情を察し、とにかくこの現場を一目見たいがために、大急ぎで帰ってきたのだ。
「あぁ、いい景色だわ・・・」
と、顔が緩みっぱなしの二郎。
「あ、四郎、連絡ありがとな。三郎から晩メシをねだるメッセージ来てたけど、四郎のアシストで状況理解できたから、急いで帰って来て正解だったわ」
「いちにぃがいる時だけの、特殊イベント発生してますからね♡」
兄弟みんなが一郎のそばに居たいものだから、特別に広いわけでもない一郎の部屋に5人が集まるのは自然のこと。
兄弟を溺愛している二郎と、そんな二郎をアシストしている四郎のコンビは、一郎がそばにいてくれる事が何より嬉しく、いつも以上に2人の連携の良さが冴え渡る。いつも下3人の兄として踏ん張る二郎や、一郎にはなかなか上手く甘えられない四郎が、一郎と過したいのだ、と、その1点においてとにかく張り切る。
そんな2人の嬉しそうな様子を見て、やっぱり一郎がいてくれる幸せを感じるのは三郎と五郎。
小声で話をしていたが、さすがに三郎と、五郎は目を覚ました。
「んーっ!よく寝た!」
「ちょっと、三郎くん、重たいんですけど」
と、五郎は三郎を押し返す。
「あは、ごめん、ごろちゃんの高さちょうど良くてぇ。じろーちゃんだと肩に頭のっけられないからさ!」
「三郎さんはじろーちゃんのなで肩で寝られるように特訓したらどうですか?」
二郎のなで肩は三郎と四郎のお気に入り。
チャンスがあればすぐに話題にしてじゃれ合うのがこの2人だ。
すかさず二郎は応戦する。
「おい、さぶ、しろ、お前らさりげなくディスったろ」
と、3人がわちゃわちゃとふざけているその傍らで、どうしても五郎は二郎の『なで肩』の話題に入れない。五郎は五郎で、一郎への親愛とはまた別の尊敬の念を二郎に感じているためか、いつの頃からか二郎はあくまでも「兄」であり、また人生の「先輩」。軽口を聞いて遊べる対象では無くなった。
とはいえ、距離感が遠い訳ではない。
むしろ、五郎は二郎に対してひとかたならぬ想いを抱いているものだから、平気でじゃれ合う三郎と四郎が羨ましく思うことも少なくなかった。
「ちょっと、2人とも二郎くんにおかしなこと言うのやめろよな」
と、とにかく真面目。
そんな五郎が二郎にはたまらなく可愛いのだが、三郎、四郎にするような甘やかさで接すると痛い目を見ることを二郎は経験上わかっている。あえて、真面目に応じることが最善なのだ。
「ほら、五郎の言う通り、ふざけてないで、そろそろメシの準備して頂けませんでしょうか?」
「はぁーい」
と、機嫌よく3人は起き上がって一郎の部屋を出た。