ガチャガチャガチャッ
がんっ
ガシャン!
「あれっ?電気ついてない!」
外からの騒がしさで帰宅を知らせるのは三郎。
自転車を止めてふと庭へ目を向ければ、いつもは縁側にこぼれる部屋の明かりが今日はついていない。
「ただいまー!!いっちゃーん!しろー!ごろー!?」
玄関を開けるなりご近所にも聞こえる声で家族の名前を呼ぶのは幼い頃から三郎の得意。いつもは『大きい声はドアを閉めてからにして!』と五郎に怒られるが、そんなやり取りが始まらないことに三郎の違和感が強まる。
バタバタとリビングに駆け込み、やはり灯りの点いていない部屋に呆然とする。
「・・・どーゆうこと」
こうなると三郎には兄弟たちの部屋を順番に開ける以外に方法は無い。
「しろー?・・・いない、、今日仕事じゃないのかよ」
三郎は仕事中だろうとお構い無しに四郎の部屋を開けるから、リモートで打ち合わせ中の相手に『お兄さん、こんにちはー』と、挨拶をされるほどになった。
四郎の仕事相手にも覚えられてしまっている。
「んー、せっかく早く帰ってきたのに。夕飯の買い物一緒に行こうと思ったのになぁ。」
ぶつぶつと言いながら、隣の五郎の部屋へ。
「ごろちゃーん?も、いない・・・。もぉー。なんでいないんだよぉ・・・急な仕事?・・・だとしたら、連絡くらいくれてもいいのに・・・四郎もいないし、ごはん、オレ一人でつくんのかな」
と、家事の中で食事担当の三郎はとにかく家族のごはんが気になって仕方ない。
コンコンコン
「じろーちゃん・・・は、いるワケないよね、お邪魔しました。」
二郎の部屋だけは何故か、無遠慮に入ることが出来ない三郎。
整理整頓が苦手な二郎の為に、彼の不在時に三郎が片付けをするのがお決まり。であるにもかかわらず、いつでも自由に入って勝手知ったる兄の部屋・・・とはならず。なんとなく二郎の部屋だけは本人がいるいないに関係なく礼儀正しく振る舞った。そのため、四郎と五郎が好き勝手に出入りすると面白くない三郎であったし、さらには、気を利かせて下2人が片付けておこうものなら『じろちゃんは片付けてくれたら誰でもいいんだね』と、寂しそうな顔をするから、それ以来、二郎の部屋は三郎が専属キーパーとなったものである。
最後には一郎の部屋だ。
『寝る日』と言われていて、まさかとは思う反面、もしかしたらまだ寝ている?とも思った三郎は、そーっと部屋のドアを開けた。
「いっちゃーん・・・ねてるー??」
小声で呼び掛けつつ細く開けたドアから中を覗けば。
「わぉ・・・そういうことか。ふふふ♡みんな可愛いなぁ」
一郎、四郎はベッドに。五郎は胡座で床に座り本は閉じられてはいるが雑に放り出されて、ベッドに頭を預けたまま眠っている。
「ごろちゃん、そんな体勢で寝たら首痛くするよ・・・?」
と、言いつつも、3人があまりにも平和に眠る姿にどうしても起こすことが出来ない。しばらく一郎の部屋で眠る3人を眺めていたが
「オレも仲間にはいろっ!」
と、ついには三郎も五郎の横に座ってベットに頭を乗せ、目をつぶるのだった。