「ただいまぁ」



バイトが終わって、今日は稽古も撮影もなく帰ってきたのは五郎。

おかえり、と誰からの返事がなくても

誰もいない家にかならず『ただいま』と言う。




・・・が、今日は一郎と四郎がいるはずだ。
なのに、返ってくると思っていた返事がなく、不審に思う。




「ただいま、一郎くーん・・・でかけた?」




いつも釣り道具を手入れしたり、なんとなく工作をするためにスペースをとってある日当たりの良い縁側のある部屋の一角。『家にいれば一郎はココ』という場所なのだが・・・そこにはいなかった。



「うーん、出掛けたのかなぁ。四郎は部屋で仕事かな。邪魔しちゃ悪いから声かけるのはあとにしよっと」


五郎の独り言は周りの人間が独り言か話しかけているのか、判断に苦しむ程度には普通に喋る。『オレ、話しかけてるけど?』と、兄たちを慌てさせることもしばしば。


そんな風に、ひとりでおしゃべりをしている五郎は、四郎の部屋に気配がないことに気づいた。




仕事中ならインカムつけて会議だったりもある。おいそれと部屋を開けるのは憚られるからドアに耳をつけて様子を伺う。


が、四郎の声どころか、カチカチと響くマウスの操作音さえ聞こえない。


「四郎もいないの・・・?」



一郎と出かけたのかと思えなくもないが、それならそれで四郎はグループメッセージを送ってくるはず。



さすがに心配になり、


【四郎、どっかでかけてる?】


とメッセージを送った。



そして一郎の部屋を念の為に確認しに行く。


ないと思うが、まさかあれからずっと寝ていたのだとしたら・・・と、そっと寝室を開けると。






「なんだよ。・・・四郎ずるい」




そこには、一郎のベッドに一緒になって寝ている四郎がいた。
四郎はちゃっかり同衾していたのだ。



ぐーぐー

きゅるるっ


と、一郎と四郎の腹の虫が盛大に鳴っている。



「まさかほんとにずーっと寝てたの?」



これは、一郎へ向けて。





空腹だろうに起きる気配のない2人をそのままにして部屋を出る。


五郎は自室に戻り、なんとなく面白くない気持ちでとりあえず次の芝居の資料を読み始めてみた・・・ものの。




「どうせ本読むだけだし、静かにしてるから」




と、誰かに言い訳のように言って、一郎の部屋へ。




四郎がしたのと同じように、ベッドを背もたれにして床に座る。


そして、ふーっと深く息を吐きながら頭をベッドに預けて天井をみる。静かに過ぎる3人の時間。一郎と四郎のそばにいられて、気がつけば気持ちが穏やかになったことを自覚して。


五郎は本の続きを読み始めた。