「よく寝てるね・・・」

「・・・ん」



朝から一郎の寝室を覗いているのは三郎と四郎。

そんなふたりの背後から声がかかる。



「一郎くん、今日は寝る日だって言ってたから、そっとしてあげて?」

「そうだよ、ほら、ご飯炊けたから三郎くん、手伝って」



と、2人をたしなめるのは二郎と五郎。


「はーい!でもさでもさ、寝る日、って決めなくたって、いつでも好きなだけ寝たらいいのにね!別にオレたち邪魔しないよねえ?」


と、五郎を手伝いながら三郎が言えば、すかさず二郎が答える。


「あんまり寝すぎてると心配で起こそうとする俺達を思ってのことだろ。『起こさなくていい』って。」

「でも、それで言うと一郎くんはさ、ご飯も食べずにずっと寝てるから・・・本人が『寝る日』って決めたとはいえ、心配は心配だよ。・・・二郎くん、やっぱり様子見てきてくれない?」


心配性な五郎はそう二郎に頼んでみたものの


「お前も心配しないでいいから、ほら、メシ食お!」


と、本当は二郎も兄と話をしたい気持ちを堪えて、弟たちを落ち着かせるのだった。





二郎は朝ごはんの後はそのまま出勤、三郎、五郎は後片付けをしてから仕事へ。





家族の半分以上が出掛けた、静かな家に、四郎と、一郎。



四郎は自宅で仕事をしているから、出勤時間の概念は無い。ふだんは空になった家にひとり。みんなを見送って仕事を始めるまでにゲームをして過ごすのが日課。



でも、今日はひとりじゃ、ない。
家には、一郎がいる。



「・・・」



やはりどうしても一郎が気になってゲームに集中出来ない。

普段は旅に出てしまって不在にしている

大好きな兄が、家に、いる。




そっと、一郎の寝室へ忍び込む。
寝てるとはいえ、一郎がこの家にいるということが、兄弟たちにどれほど心強く安心で、それでいて何より嬉しいことか。




「いちにぃ・・・?・・・ねてる?」


返事は期待していないがついつい話しかけてしまう。
起きている時に素直に話ができない四郎は

こうして寂しさを紛らわす。


「気持ちよさそに寝てますねぇ」


寝ている一郎を見下ろせば、思いがけず幼い表情で。
そんな無防備な一郎を見て少し安心する。
いまこの人は、どこにも行く心配は無いから。


ベッドを背もたれに床に直接座って独りごちる。


「もうちょっと、我々と一緒に過ごす時間を作ってくれてもいいんですけど」