「いつか櫻井さんの話をきかせて」

と言ってくれた相葉くん。


俺の話、か。

自分のことを知りたい、と言ってもらえて。
それが誰あろう相葉くんで。


嬉しい反面、正直怖いな、とも思う。


世渡り上手、悪く言えば・・・八方美人?

容姿がそれなりであることも手伝って、表面的な愛想の良さを発揮することは、俺的には心地よい距離感の人間関係をつくる処世術。あちこちにいい顔しておけば、大抵の事は笑顔と行動力でどうにかなる。


本当のことなんか話さなくたって。


お互いに何も知らなくても、仕事はできるし

生きるのに不自由はしない。



ただ、たまに、どうしようもなく、

不自然だな

とは、おもうけど。



あ・・・

なんで相葉くんに「本当の俺」を見せること前提なんだ。
それこそ、「いいひと」の看板で上手くかわせばいいのに。







あの日を境に、俺は相葉くんを遠慮なく誘うことにした。

そしてそれは、相葉くんが俺に、も。



「櫻井さん、もう今日は先方さん、連絡くれなさそうですねぇ」

「だな、結局のとこ、向こうからの回答待ちだし、俺らがこれ以上会社で待ってる必要もないな」

「メシ、いきますか?」

と、相葉くんが誘ってくれるのは既に行きつけとなった、初めて飲んだいつもの店。




「こんばんはー」

「お、いらっしゃい、いつもどうも」

「智くん、まーたずいぶんと日焼けして!あのあとやっぱ海行ったんだ?」


「おう!しょーくん魚食いたいって言ってたからな!うめぇ魚、食わしたる!」


「おーちゃん・・・櫻井さん、オレの上司なんだよ?もう少し丁寧に接してくれない?」

「あはは!いいよ、相葉くん、俺こういう感じスキだから」

「オイラもしょーくん、好きだぞ!」


あははーっと笑って席に着いてビールを待つ。
いつもならビールを待つ間にも途切れなく他愛ない話をする。


が、いま、相葉くんは口数が少ない。


「どした?・・・疲れてる?」

「あ・・・いえ、すみません、えっと・・・あ、今日、忙しかったですね」

「もう、新規案件とってくるのはいいけど、営業のヤツら、何でもかんでも言いなりになってくんなっつーの、なぁ!」

「・・・・・・」

「・・・相葉くん?」

「あ、すみません、えっと・・、ハイ、そうですよね」



と、そこへ智くんがビールを持ってきてくれて。



「しょーくん、赤貝の刺身あるぞ?」

「やったマジか!あ、こないだありがと!お土産にもらったイカの沖漬け、めっちゃうまかった!」


「だろぉ?今日も食うか?」

「食いたい食いたい!」

「ちょっと待ってろ。あ、相葉ちゃんはとりあえずから揚げでいいか?」

「・・・ん、おねがい」




乾杯、と、グラスを合わせると、相葉くんはぐびぐびと一気に半分以上を飲んで。



「櫻井さん」

「ん?」


「おーちゃんと、すごく仲良くなってますね」

「あー、うん、一人で飯食うくらいなら、ここに来たほうがうまい飯食えるしな、って・・・。えっと、智くんが『飯食いに来い』って連絡くれるからついつい・・・あー、ごめん、家の近所に上司がしょっちゅう来てたら、イヤ、だよな」


いつになく、トーンの低い相葉くんの声色。
思わず言い訳のように言い募る。


「すみません、ずいぶんおーちゃんと仲良く話してるから・・・オレのほうが長く一緒にいるのになーって、羨ましいなって、思っちゃいました」


にっこり笑ってくれたけど、それは明らかな作り笑顔で。

やっぱりどことなくいつもの元気がない相葉くん。


すこし影のある瞳の色に・・・


不謹慎ながら腹の底がざわっとした。