「今日は・・・・・・ひとりでいられなくて・・・」
そういって相葉くんはぽつぽつと話し始めた。
その写真。
オールドイングリッシュシープドッグの「ぽち」
こどものころに飼っていた女の子。
犬にはぜったいに「ぽち」と名付けたいと決めていたので自分は気に入っていたが、ともだちから「メスなのにぽちなんて変だ」「この犬にぽちなんて似合わない」とからかわれた。
自分の考えや好きなものを否定される初めての経験。
幼心に自分自身が否定されたようで
怖くてひどくつらかった・・・と。
相葉くんがいつの間にか握っていたオレの手。
きゅっと、力が入るのを感じる。
「その時に慰めてくれたのが、ばあちゃんなんです」
「そっか・・・相葉くんに味方がいて良かった」
「・・・はい。ばあちゃんが言ってくれたんです。『人それぞれに「すきの気持ち」があって、それは誰から何を言われても絶対に汚されないキレイなモノだから』って」
「・・・うん」
「『すきの気持ちを大切にしているまーくんはとても素敵なのよ』って。」
「人それぞれの、すきの気持ち、か。」
「はい。オレ、その言葉にものすごく安心して。オレの『すきの気持ち』は、オレだけの価値観で持っていていいんだって。そういって慰めてもらえて、それ以上に自分の存在を認めてもらえて、ほんとうに安心したんです。・・・それからばあちゃんには何でも話すようになりました。あとぽちも、一緒にオレの話をおとなしく聞いてくれて・・・本当に、なんでも」
「いいね、そういう存在は心の支えだ」
「・・・櫻井さんにも、なんでも話せるような、心の支えのひと・・・いますか?」
「俺は、あまり他人に自分のことって話してこなかったかな・・・」
改めてそんな風に自分のことを話す機会もなく、聞いてくれる人間もいなかったのかもしれない・・・と思うと、結構さみしい人間なのかなぁ、なんて。
いや、俺自身が誰かにわかって欲しいなんて思ったことがなかったのかもしれない。どうせ、わかるわけないんだ、と。
学生の頃は酒の勢いに任せて熱く人生を語ったこともあっただろうが、あくまでノリと見栄でしかなく。
本音、みたいなものは確かに・・・
「まぁ、俺の話なんてつまんないもんだからな」
「そんなこと、言わないで・・・・・・いつか、櫻井さんのこと、聞かせてください。オレ、櫻井さんのこと、知りたいです。」
いつの間にか涙に濡れていた相葉くん。
でも、もう、無理をした笑顔ではなかった。
柔らかく微笑む彼が、とても・・・綺麗だった