買ってきたビールとつまみで

シャワーを浴びる相葉くんを待つ。



そわそわする自分を自覚して、せめてだらしない酔っ払いにはなるまい、と、もう一本開けようとしたビールを思いとどまった。


待っている間に不躾ながら室内を見渡せば、窓際のオーク素材のオープンシェルフにおしゃれに収納された文庫本やCD、レコードに混ざって、ふと、そこには明らかに異質な写真立てが目に入った。


布で作られた、写真立て。

いわゆるパッチワークで仕立てられていて、

そこに、まさに「手づくり」という様相を呈しているそれ。


どちらかと言えばスタイリッシュなこの部屋に

・・・明らかな違和感。


相葉くんが選んだものではないのかもしれない。


・・・プレゼント?


そのまま写真立てに意識が向けば、必然、装丁された写真も気になる。


飾ってあるんだから、見せてもらっても、いいよな・・・



何気なく近づいて、目にしたその写真には、白くて毛がモフモフの大きな犬を抱え、くしゃくしゃな笑顔で学ランを着た相葉くんが写っていた。



「・・・かわい。ふふ、ワンコ、でけぇな。」


「ぽち」


「え?」


振り返れば、いつの間にかシャワーを終えた相葉くんがビールをもってリビングに戻ってきたところだった。




「そのコ、その写真の白い犬、ぽち、です」


「あ、このコ・・・?ぽちか!いいね!犬らしくて・・・って、意味わかんないな・・・じゃなくて、ごめん、勝手にみてた」



「全然、むしろ、ありがとう・・・ゴザイマス」


「・・・え?」




なんだ、急に。


ありがとうと言った相葉くんは、目線を落として何か言いたげに、テーブルに置いた缶ビールを見つめている。



「どうした?」


「あの・・・今日、一緒に過ごせて、うれしかったです。」


「うん、こちらこそ、本当にたのしかった。相葉くんとこんな風にゆっくり話すこともなかったよね。もう半年くらいは一緒に仕事してるけど、こういう時間って結局なかったもんなぁ」


「初めてご挨拶した日から・・・きっと、櫻井さんとはうまくやっていけるって思えて。だから、毎日仕事してるだけで、本当に楽しかったです。」



「なになに、どうした、急に。」





相葉くんが低く、静かに話し出す。




「実は、今日、祖母の四十九日だったんです。」


「あ・・・そうだったのか。知らなかったとはいえ、なにもできなくて・・・ごめんな。お悔やみ申し上げます。あ、ご葬儀は・・・」


「はい、あの、以前、急におやすみをいただいてしまった日があって・・・」



そうだ、思い出した。


月曜の朝、相葉くんがメールで連絡してきてた、あの日。




「メールくれた日?」


「あ、はい。そうです。その節は、申し訳ありませんでした」


「ぜんぜん、気にしなくて大丈夫だよ」



「週末だったので、休日に連絡するのも憚られて、結局当日になってしまって」


「そんなのは本当に気にしなくていいよ・・・。それより、おばあさまと最期にお話はできたの?」



「・・・・・・」



うつむき加減で横に首を振る。



「そっか・・・それは、とても残念だったね。」




「はい・・・長く施設にはいってて、手術したりもあったから・・・いつそうなってもって覚悟していました。でも、やっぱりそうは言っても・・・祖母は・・・ばあちゃんは、特別だったから」




「仲が良かったんだ?」


「はい。・・・その写真立て、ばあちゃんが作ってくれたモノで。」



「そうなんだ・・・とても丁寧に作られてるね。相葉くんへ愛が溢れてる」


「えへへ、そう思ってもらえて、ばあちゃんも喜びます」



そういった相葉くんは、泣きそうになりながらも必死に笑顔で答えようしてくれて。




「相葉くん、無理して笑わなくていいよ」


「ふふ、せっかく櫻井さんと一緒にいられるんです。楽しく過ごしたいじゃないですか。すみません、しんみりしちゃって」



笑顔でいようと頑張っている彼。

それを見てどうにもならない感情が生まれるのを自覚する。



・・・いや、自覚はとうに。

自覚したなら、認めるか、目を逸らすか。



彼の顔に手を添えて、指で頬を撫ぜる。



俺の行動に驚く素振りは見せない。

むしろ、頬を包む俺の手の上から相葉くんが手を重ねる。



「櫻井さん・・・話の続き・・・きいてもらえますか?」