相葉くんの家までは、相葉くんの希望通り、聞かれるがままに植物の解説をしたり、星や月の蘊蓄を語ってのんびり歩いた。
深夜のお散歩デートだな。
なんて。
相葉くんの、距離が、近い。
酒を飲んで歩いているせいか
彼の体温が上がってるのがわかる。
触れる肩先が熱を帯びる。
話しながら肩に手を置いたり
背中をポンと叩いたり
腕を掴んだり。
それはいわゆる同性同士で
気の置けない間柄の親愛から生まれる距離感だ。
わかっている。
わかってはいるが、意識的に触れるタイミングを測ってしまう自分の下心の自覚。相葉くんから触れてもらえるような話の方向性を誘うあざとさ。
「櫻井さん、ジム行きましょうよ、今度」
「お、いいね。相葉くん結構鍛えてるの?」
「ふふ、触ってみます?かなりいい感じですよ」
「相葉くん、髪サラサラだね」
「でも多くて扱いにくくて」
「髪多いならツーブロックいいよ、俺いま刈りたて」
「あ、触りたい!・・・ふふふ、手触り気持ちい」
歩きながらじゃれあって、いつの間にか手を繋いでる。
酔っ払った勢いってことなら、いつまでもこの勢いでいて欲しい。
「オレんち、ここ曲がるんですけど、この先にコンビニあるんで寄っていきましょ?」
「うん、コンビニいきたい」
そんな風に、あまりにも自然に。
相葉くんに『こっちです』と、手をひかれて。
俺も『うん』と、それだけ。
むしろ
これに過剰に反応する方がおかしいのだ
というくらいに。
相葉くんの無邪気さと素直さに頼って
なんだかんだと言い訳をする。
とはいえ、結局、俺が相葉くんに触れたいのだと
認めざるを得ない。
「ねぇ、櫻井さん。明日の朝、オレが朝ごはん作っていいですか?」
あーあ。可愛いな、ちくしょう。
コンビニでは、明日の朝ごはんの材料を揃えてくれた。
だが、これで何が出来上がるのか、俺には皆目見当もつかない。
「なぁ、相葉くん。これは何を作る材料なの?」
「えっとー、とりあえず食パンと牛乳、あと卵、ハムがあればなんかできるかなってくらいで。」
「すっげぇなぁ・・・」
「ぜんぶただ焼くだけですから簡単なものですよ。櫻井さんは料理はぜんぜん?」
「ぜんぜん、まったく、デス」
「なんか、想像つきます(笑)」
「家でなんかするっつったら、コーヒー飲むくらいだなぁ」
「お湯が沸かせればカップ麺だってレトルトだって出来ますから!」
「だよなぁ!」
って、なんていかにも男所帯な話をしつつコンビニを出れば
当たり前に相葉くんが手を差し出してくる。
・・・期待とか、そういうんじゃない。
流れだよ、流れ。
自分に言い、もう一度、熱くて大きな手をとった。