翌日。

「さくらいさーん!」

相葉くんが俺の後ろから小走りで追いかけてきた。

「お、相葉くん、おはよ。調子はどうだ?」

「おはようございます、昨日は急なおやすみをいただきまして、ご迷惑をお掛けしました・・・申し訳ありませんでした」

うーん、目が真っ赤だな。
顔色もイマイチ。

「いいよいいよ、そんな気にしないで。幸い、急ぎの案件も無かったしね。それより、まだ顔色わるいぞ?」

「あ、えっと・・・すみません、体調はホント大丈夫です」

「まぁ本人がそう言うなら。でも、無理はしないでな。今日も早めに帰れ?」

「まだ仕事はじめてもいないのに帰れなんて?」

「あっ・・・えっと、じゃなくて!心配してるってこと!」

ヤベェ、またこれやっちまったか?
アタフタしてる俺を見て相葉くんは

「ふふ、ごめんなさい、冗談です。ご心配ありがとうございます」

と、めちゃくちゃかわいい笑顔で言ってくれた。





昼休み。

「あの、櫻井さん、おひる、ご一緒できますか?」

「えっ!?あー!悪い!もうそんな時間?」

「はい・・・すでに13時過ぎてます。すごく集中してましたね」

「うっわマジか!待たせてごめん!声掛けてくれてありがと、いくか!」

「はいっ!」



いつもの蕎麦屋へ向かう道すがら。

まだ天ぷら残ってるかなぁとか

今日は温かいのにしようとか

これから食べる蕎麦の話題の途中。




「櫻井さん、やっぱり昨日の仕事・・・シワ寄せきちゃってますか?」


並んで歩く相葉くんが申し訳なさそうに俺を見る。


「え?なんで??」

「あんなに時間も見ないで集中してて、捌く業務量が多いのかなって・・・」

「あー、それね!」


実を言えば、相葉くんがいない昨日

ぜんぜん仕事が手につかなくて、自業自得・・・。

からの今日、相葉くんがそこにいるだけで、

めっちゃ仕事が捗るもんだから、結局プラマイゼロ。



むしろ、どんどん予定案件を先取りできちゃってる。

そっか、気にさせちゃって悪かったな。

でも、そんなこと言ったら

またなんとかハラスメント疑惑になりかねない。


なんと答えようか考えてたところへ


「お手伝い出来ることあれば、何でもやらせて欲しいです。側で仕事できているうちに、櫻井さんの役に立ちたいので!」


うっ・・・か、かわいい。
ぐっと拳を握って【頑張ります】とポーズを決めてくれてる。


「相葉くんは十分役に立ってくれてるよ、ホントに。ありがたいです」

「そうであれば嬉しいですし、これからも櫻井さんと一緒にに、できれば、肩を並べて仕事ができるようになりたいと思ってます」


そうだった。
そろそろ半期が終わり、異動の時期だ。

このまま同じ部署の可能性はもちろんあるが、

異動だって当たり前にある。



そのことを意識した言葉なのかな。
こんな風に相性良く仕事が出来て、俺を癒す笑顔の持ち主。
俺も離れたくない。


「もう既に、相葉くんは無くてはならない存在だよ、これからも一緒に仕事しような」


なるべく軽く聞こえるように、冗談でもいいくらいを意識して。

でも、これくらいは本音を言ってもいいだろう。






ふっと、相葉くんが立ち止まった。

振り返ると、真剣な眼差しの相葉くんと目が合った。


じっと俺を見て、そして。

泣きそうな顔をした刹那



「・・・ありがとうございます」





静かにそう言って、柔らかな笑顔を見せてくれた。