■23:28
どれだけ長い時間だったかしれないが
「しょーちゃん、降りるよ?」
「・・・ん」
運転手に礼を言う様は、穏やかできっと多くの人間から好かれていると、誰もがそう感じる振る舞い。
・・・俺はこの男の二面性を知っている。
そう思うと、震えるような興奮が湧き上がった。
タクシーで散々と弄ばれ、熱を昂らせた俺を
何事もないかのように雅紀は自身の部屋へ導く。
エレベーターの中、密室。
タクシーのアレのお返しをしてやりたい。
今すぐにでも雅紀の唇を俺の舌でこじ開けてやりたい。歯列をなぞり、頭を抱え込んで、吐息も唾液も全て飲み込んで、そうして『しょーちゃん、くるしい』と切なく喘がせたい。
そんなふうに、今か今かと狙っていたはずなのに、思いがけず力強く抱きしめられ、甘い甘い声で『しょーちゃんを、ちょうだいね』と囁かれて、思わず頷いてしまった。
そこからはもう一気。
「ん・・・ッ、ま、さき、ハァ・・・くるし・・・っ、んッ」
玄関のドアが閉まるのを待てずに、キスをしかけたのは俺からだったはずなのに。あのエレベーターの妄想は、そのまま、俺がされる側になってしまって。
酒と酸欠でアタマがくらくらする。そのせいで意識が飛びそうになる刹那、呼吸が戻る。その繰り返し。甘く蕩ける様な、それでいて頭のシンが痺れていくような、濃密な。
壁に追い詰められ、雅紀の膝が脚の間に割り入れられ、ぐっと圧をかけられる。両手で耳を塞がれ、雅紀から食いつかれるようなキスの嵐。
「んっ、はぁッ・・・んっ、ま、さき・・・はぁ」
「しょ、・・・ちゃ、んッ、」
奪って、与えて、絡めて、交わる。
お互いの舌を探っては我先にと吸い付き
上顎を舌先でくすぐり
唇を食んでは水音を立てる。
キスがこんなにも感じるものだとは知らなかった。
口内は性感帯であると実感する。
唇が触れ合う、離れないギリギリの距離を保って、荒い息を調える。雅紀の熱い息が、そのまま彼の欲望なのだと。
そう思うと俺の下半身が否応なく疼く。
「雅紀、・・・酔ってる?」
「酔ってない。酒のせいになんかしてあげない。全部、オレの意思。しょーちゃんが欲しいよ。」
思いがけず切羽詰ったような雅紀の声に、腹の奥が震えた。
返事の代わりに雅紀の首に腕をまきつけて
「タクシーの続き、してよ」
耳元で囁いた。