■22:15
「しょーちゃん、今日は急な誘いに付き合ってくれてありがとうね」
「うん。誘ってくれてめちゃくちゃ嬉しかったし、ホントに楽しかったよ。」
「ふふ、良かった!貝の会、忘れないでね」
「お、雅紀こそ、覚えてたとは意外」
「ちょっとー!そんなすぐ忘れないよ!?」
「まぁ、明日になればわかるよ、酔っ払いの約束は当てになんないからな(笑)」
「だからー酔ってないってー」
「はいはい(笑)」
駅までの途中。
街路樹がイルミネーションに彩られて、
基本、通勤のためにしか歩かないから、
「きれーだなぁ、俺、イルミネーション好きかも」
「しょーちゃんの好きなもの、またいっこ知れて嬉しいな」
「俺の好きな物?」
「そう。今日の収穫。まず貝でしょ、ほかに食べ物だとシチュー、あけび?(笑)あとはー、ラグビーでしょ、うたでしょ、HIPHOPとか・・・で、コレ」
と、光の粒を見上げる雅紀がものすごく綺麗で
やたらカッコイイ。
「雅紀は、から揚げとハイボール、あと、読書?」
「うん」
『しょーちゃん』『雅紀』と、なんとなく雰囲気に流されて自然に呼びあえるようになって。やっぱり雅紀は距離感がバカで。
・・・手を繋いでいたりしていて。
そのままなんとなく無言になる。
さすがにちょっと、雰囲気良すぎて・・・照れる。
とおもいつつ、さんざん喋り倒していた雅紀が急に静かになったもんだから、ちょっと心配になってきた。
「まーさき、どした?歩いたら酔い回ったか?」
「ふふ、どーかな。」
「酔ってない!って言わねーんだ(笑)」
ふと、雅紀が立ち止まる。
茶化したのもつかの間。
雅紀は俺の方を振り向いて、
そのまま、俺の手の甲に唇を押し当てる。
まるで・・・キスを、するように。
「ねぇ・・・しょーちゃんは、酔ってる?」
「・・・うん、気持ちいい・・・くらいには」
これまでニコニコと朗らかに明るい声で笑っていた雅紀が嘘のよう。
相変わらず、手の甲には雅紀の唇の感触。
時折、舌でなぞられた後がひんやりとする。
俺を見据える瞳の奥に、熱を、感じる。
「もっと、気持ちよく・・・してあげようか」
雅紀から発せられる欲情の音色。
それは、俺が
俺自身に
期待するなと、言い聞かせていた、熱情。
雅紀は俺の手の甲に音を立ててキスをしている。
見つめあったままで。
なんども、なんども。
完熟した桃に齧り付くかのごとく。
まるで俺の手が、雅紀にとっては魅惑の果実であるかのように、滴る果汁を一滴も漏らすまいとするかのように、吸いついては舐め、角度を変えてはそっと歯を立てて、その上をまた舐めとっていく。
少しづつ、近づいてくる。
雅紀の吐息。
酒の匂いと飲酒後の独特の体温。
ついには俺の口元に、雅紀の手の甲。
空いている彼の右手は、俺の腰を抱く。
「しょーちゃんも、して?」
「雅紀・・・酔ってる?」
「酔ってないよ。全部わかってやってる。」
「・・・マジか」
「ね、だからしょーちゃん、もう、安心して堕ちていいよ、オレに」