■16:20


「・・・翔くん、なんかやたらソワソワしてない?」

「は?いや別に、なんもないけど」

「『なんもないけど』って、なんかあるって言ってんのとおんなじっスよ?」

・・・するどい。

「うるせぇぞ、潤。黙って仕事しろ」

「わー、サクライさんにパワハラされたー」



後輩の軽口もからかいも、今日の楽しみを盛り上げる演出のように感じてしまうんだから、どれだけ浮かれてるのかということを自覚した方がいい。

とかなんとか自制しつつ、やはり時の進みを待ちわびてしまう気持ちは、時計に視線を向けることを堪えさせてはくれない。

「っはは!もー翔くん、時計見すぎだって~」

「うっせ!ってかさ、おまえ、自分のデスクで仕事しねーの?」

「いつも言ってるじゃん、誰かとしゃべりながらの方がアイデア浮かぶし、喋りながらだと自然と呼吸するから柔軟でいられるんだよ。根詰めたっていいことないしね。」

「俺とばっかしゃべってんじゃん」

「ん?」

「ん?じゃねーわ(笑)アイデア欲しいならいろんな人と話したほうがいいんじゃねーの?

「・・・めずらし。おれを邪魔にしてる。いつもそばにいてもなんも言わないのに。」


相葉さんとおなじクリエイティブ職で、ディレクターの潤とは、
最寄り駅が同じで・・・どころか、実はマンションの部屋が隣どうし。
世話焼きな性格からか、俺の食生活やらスーツのクリーニングのタイミングに至るまで、細かくチェック・・・もとい、様々に気にかけてくれて、結果、飯を食うのも酒を飲むのも、地元の駅まで帰ってきてから近所の行きつけの店、もしくは潤の家で、ということが多い。

距離が近い分、お互いに遠慮がない物言いをするから、こじれることもよくある事で。今日は潤と面倒な話で終わりたくないから・・・
多少わざとらしくもあるが、話題を変えてしまおう。

「あ、そうだ、潤。今日は俺、約束あるからメシ大丈夫。」

「・・・だろうね」

「なんだよ、だろうね、って」

「誰かと約束してるから時間気にして仕事してんでしょ?」

「・・・おっしゃる通り」

「ふーん。・・・今度は、どっち?」

「・・・どっち、とは」

「翔くんから誘ったの?相手から?オンナ?・・・それとも、オトコ?」

「・・・ノーコメで。」

「今日、急に?」

「ん、まぁ・・・、あ、なんか用意してくれてた、よな?わりぃ」


たぶん潤は、俺を気に入ってる・・・んだと、思う。
いろいろ世話を焼いてくれるのは、そういう気持ち込みで、だろう。
ハッキリ言われたことはないが、おそらく。


「・・・まぁ、いいよ。わざわざメシいらねぇとか言うのもめずらしいし。よっぽど楽しみなんだね」

「いや、べつにそんなんじゃ・・・ねーけど」

「はいはい。飲みすぎて間違えておれんちに帰って来ないでよね。あれ、すげービビるんだから。」

「・・・善処します。」



そのあと潤がなにか言ったように思ったけど、
気のせいだと思うことにして、残業にならないよう仕事にとりかかった。


「・・・まぁ、別にいいんだけどね、いつ来てくれたって」