#S


「目標?」
 
「うん。ソロキャンが楽しめたら、『リーダーのソロキャンちゃんねる』にコメントしてみようって、思っててさ。目標なんて大袈裟なもんじゃないけど…」

「ふふ、コメントくれたら嬉しいかも」

「なんかもう恥ずかしいよ(笑)」

「そんなもんか?」

「そんなもんだよぉ・・・」


さとしくんの肩に頭を預けて、風が揺らす木の葉の音や、焚き火のはぜる音に紛れるように、小さな声でささやきあう。

「あのさ、俺べつに毎日の仕事ばっかりの生活にも、実はそこまでうんざりしてるって訳でもなくて、趣味もないけど、特に残念な生活だとは思ってなかったんだ」

でも、知ってしまったんだよ。

風の中で目を閉じて
それでも感じる光の眩しさ
過ぎる時に合わせて変化する太陽の色
深呼吸して感じる空気の温度や香り

なにより
だれかと同じ時間を過ごすことの思いがけない充実感
心を寄せた相手と体温を分け合う多幸感

「ねぇ、さとしくん」

「ん?」

「俺さ、ちゃんとサラリーマンしてるの、嫌じゃないんだ。・・・でも、ここで、さとしくんと過ごせる時間がめちゃくちゃ楽しくて・・・・・・。こういう時間で満たされてる自分に気づいて・・・なんか元気になれたんだ。」

「うん」

さとしくんは優しく俺の頭をなでながら、まとまらない気持ちを話すのを待ってくれてる。

だから、こんな気持ちを伝えても、きっと・・・大丈夫。


「・・・だからまた、ここ来て、さとしくんとキャンプしても、してもらっても・・・・・・いい、かな」

「ソロキャン、じゃなくて?」

「・・・あぁ・・・・・・あー、うん、ソロキャンじゃなくて…」

ただの体験客のオレが、ソロキャンちゃんねるのリーダーであり、凄腕のインストラクターでもあるさとしくんと一緒に、なんて、足でまといでしかないのはわかってる。

だけど。

「一緒に過ごしたいって・・・一緒にいたいって、思っちゃったんだ・・・・・・ぅあっ!?」


不意に強く抱きしめられて、鼓動が早くなる。

「ちょ、ちょっと、ね・・・さとし、くん?」

椅子に座る俺の前に膝をついていたさとしくんだから、
必然、俺の胸元にさとしくんは顔を埋めていて。

「しょうくん、すげー・・・ドキドキが早いな」

「・・・っ、ぅ、うん、ごめん」

いたたまれなくておもわず謝ると
くすくす笑いながら、優しく背中を撫でてくれる。

「なんで、あやまる?なんもわりぃことないだろ」

「いや・・・なんか、その・・・・・・うるさい、かな、とか」

「・・・やっぱ、しょうくん、かわいーなぁ」

「かわいいって・・・もう、さとしくん!」


くそぉ・・・恥ずかしすぎるよ。

一緒にいたいとか
鼓動の速さがバレるとか
挙句の果てに、かわいい、とか

俺、こんなヘタレ?
いつものシゴデキな俺はどこいった・・・