#O
言葉を丁寧に真摯に紡いで
自分のいろんなことを
語って
伝えて
ヒトと繋がってきたんだろう
今日ほんの数時間一緒に過ごしただけでも
しょうくんがどんなふうに周りの人と関わっているか
彼の人間としての魅力のほんの一部だとしても
その魅力のカケラを十分に理解出来たと思った。
そんなしょうくんが
口にする言葉に迷いや不安があって
自分自身でもきっと理解出来てない気持ちを
どうにか言葉で表そうと必死になってる。
「しょうくん」
心の中を探り探り、どうにかオイラに伝わるように、と、それすらも伝わってくる言葉をくれたこんな誠実な人間に、オイラから発することができる言葉はひとこともなかった。
ただ、気持ちがあるだけ。
その気持ちを表す言葉を、オイラは持ち合わせていない。
故に、再び「しょうくん」と、呼びかけるしかない。
うつむき加減のしょうくんを下から覗きこめば、浅い呼吸をしながら目にいっぱい涙をためて。
口を一文字に結んで。
ゆっくりとこちらを向いてくれた。
そんな顔見せられたら、ますます言葉なんかでなくなる。
難しいことを考えるのはもともと、うまくない。
感じたことを、めいっぱい受け止めて、生まれた何かにつき動かされるままに。
しょうくんの頬に手を添えると、
途端、表面張力を失って零れだす透明。
「キレーだな・・・」
しょうくんはささやかに首を横に振る。
その度にぽろぽろとこぼれる涙。
「キレーだよ、しょうくん。」
日常から離れて。
気持ち解放して。
そうだ。
ここはキャンプ場。
自然に身を任せて。
全てが一期一会。
ここを逃したら二度と・・・。
本能のままに求めても、いいよな。
ゆっくりと顔を近づけて。
唇に息のかかる距離でも目を閉じないしょうくんに
そんなところも愛おしいと思ってしまう。
相変わらずギュッと結んだままの唇を緩めてほしくて
しょうくんの唇をぺろりと舐めた。
息をするのも忘れていたのか
途端に熱い吐息が吐き出される。
逃さずしょうくんの唇を自分のそれで塞ぐ。
「んっ!...ん、ッはァ、...ッ」
しょうくんが息継ぎをするたびに甘い響きが漏れる。
顔の角度を変えながら
頬を優しく撫でていた手はとっくに忘れて、
今や両手で頭をホールドした状態に。
しょうくんの唇を、舌を、追いかける。
初めてのことは様子を伺うよりも、勢いと自信。
それが本当に求めていることだと確信していることなら、
迷うことなく、全部を全力で手に入れる。
「...お、ちゃ......んっ」
息切れしつつ、オイラの名前を呼ぶのは、決して拒絶ではない。しょうくんの手はオイラのジャケットの胸元をぎゅっと握って、引き寄せてくれているのを感じるから。
「しょうくん、キス、気持ちいか?」
「おーちゃん...」
会話をしつつ、なおも唇は離さない。
「やっぱり、オイラのもんにしたい」
「おーちゃんの...もの、に?」
「うん。...あ、そうだ。」
「……ん?」
「さとし、って。呼んで。」
「…さとし」
「そ、リーダーでも、おーちゃんでもなく、さとし。…それが、オイラのホントの名前。」
「さとし」
まるで初めての言葉を聞いた時のように、発音を確認するかのように、ゆっくりと復唱してくれる。
「しょうくんは、翔くん、だもんな」
「ぁ・・・なんで知って・・・」
「キャンプ申し込みの情報、みてるからさ」
「あ、そっか・・・はは、なんの工夫もなくてね」
照れたように目を伏せて、そのままオイラの肩におでこを乗せてくれた。
「……さとし、くん」
「ん?」
「今日、本当にたのしかった」
「そっか、それはオイラも嬉しいな」
「大袈裟だけど、いっこ、目標が叶った、かな」