#S


とにかくおーちゃんが世話を焼いてくれる。

キャンプの大変なとこは簡単にこなしてくれて
ちょっと面白いってことはさりげなく任せてくれて
作業の難易度が俺にとってはちょうどよくて。

なんだか世話焼き彼氏に可愛がられてるみたいだ・・・


・・・っておい、俺!
彼氏ってなんだ!
偏見はないが、経験はないぞ!

当たり前みたいにおーちゃんに
「彼氏み」を感じてる自分にびっくりだ。

でも、最近では仕事関係以外でこんなに人としゃべることなんかない。損得勘定もない相手とただ笑ってはしゃいで、失敗も楽しくて、こんなふうに生き生き過ごせる時間を持てるとは思わなかった。

そりゃ、おーちゃんはソロキャンのインストラクターとして仕事だろうけど、それでも、俺にとって自然にお互いが気持ちよく過ごせる距離感を感じあえる相手って

・・・・・・正直、めちゃくちゃ、いい。




「おーちゃんと出会えてスゲーよかったなぁ」


いつの間にか暮れゆく空。

ソロ用の小さなテントを並べて。

ランタンと小さなマイ焚き火。
いい酒とうまいアテ。

強めの酒で火照るカラダを夜風がここちよくなでる。

ぼんやりしたアタマで火を見つめていると、時間がとろりとろり静かに流れて、自分が透明になっていくような不思議な感覚におちていく。

まだ出会って数時間だけど、なのに、他人と過ごしてこんなにも気持ちを緩めることができるなんて思ってなかった。


人のぬくもりって、肌を重ねることだけじゃないんだな。
むしろ、ココロの距離感。
精神的に満たされて、ココロが気持ちいい。


いまのこのキモチはたぶん「しあわせ」なんだ。


キャンプ、すごい・・・。



「オイラもしょうくんに出会えてよかった。」


優しい眼差しが焚き火の明かりに揺らいで思わずドキっとした。

今日は何度もおーちゃんにドキドキさせられてる気がする。

・・・ってか、これ、アレだ。
突然でまさかの気づき。

好きって、こういう気持ち・・・だった、かも・・・?


久しぶりの解放感とあったかい出会いに勘違いしてるってのもあるかもしれない。
でも、気持ちが満たされてしあわせで、それがおーちゃんと一緒にいることで成り立っているなら、否定する必要が無い、認めちゃってもいいって思える。
ゲレンデならぬ、キャンプ場マジック、だったとしても、それはそれでいい思い出だ。



「ありがと、おーちゃん。今日、本当にたのしかった。」

「おう、オイラもスゲー楽しかったよ。」

「来たときはソロキャンっ!て意気込んでたけど、ガチでひとりだったらなんもできなかっただろうなぁ。」

「んふふ。しょうくんには・・・ソロキャンのハードルは高いかもな」


無理って言わないでいてくれるの、そういうとこ、優しい。


「YouTubeのソロキャンの動画みてさ、中の人がすげぇ楽しそうにしてて、あこがれたんだよね。食料調達から、居場所の確保、自然を自然のまま受け入れて利用して、共存してるって感じ。全部が自分のために。全部を自分でやるって・・・。簡単とは思ってなかったけど、まさかこんなに難しいとは思ってなくて、リーダー・・・あ、そのYouTubeの中の人ね、めっちゃ尊敬する」



炎を眺めながら、自分の話をして、それを聞いてもらえてる、聞いてくれてることがわかる。

そんなことにさえグッとくる…。
俺、どんだけさみしかったんだ(笑)

自分のことを知ってもらえるってうれしいものなんだな。




「尊敬とか大袈裟だな、でも、うれしいな、そんな風に言ってもらえて」

「うん、ソロキャンできる人、みんな尊敬だ!弟子入りしたい!」

「弟子入りか(笑)」

「あー・・・、あは、俺なんか、足手まとい、だよね」

「弟子入りより、嫁入りして来いって感じ?」

「・・ッ!ゴホッ、よ、よめいり!?」


急に何言いだすんだコノヒト!


「そうそう、しょうくんは弟子じゃなくて、嫁だな(笑)」

「よめ・・・俺、おーちゃんにとって嫁ポジなの?」

「おう!しょうくん、可愛がってやるぞー?」



可愛がるって・・・。
おーちゃんに嫁扱いされて、俺は俺でおーちゃんに彼氏みを感じちゃってたのもあり、リアルに照れる・・・っていうか、うれしいと思ってる自分に戸惑う。


「う、うん!もうちょっと花嫁修業してからお願いします!」


冗談で返してみるけど、内心、どっきどきだ。


「修行するならオイラんとこ来いって」

「あは!まだまだ右も左もわからないフツツカモノなので、勉強して出直します!」

「勉強するって、どうやって?」


おーちゃん、すげぇグイグイくるな。

普段の俺なら絶対に本心なんか言わない。
知性と営業スマイルでうまく距離をとるところだけど

なんだろう・・・迫られて、うまくかわせない
でも圧を感じる不快感はなく
むしろ心を開かれていくような感覚。

とはいえ、不快ではないにせよ、これ以上の形勢不利は・・・

俺、迫られることに慣れてない。
かわせない相手から詰められて
よからぬことを口走りそうだ。

話題を変えよう。

「えっと、YouTube、で?あ、そうだよ!ここ申し込むときにも書いたんだよ『リーダーのソロキャンちゃんねる』見てるって!ああいうの、おーちゃんはどういう風に感じてるの?」


「・・・YouTubeね」


突然ニヤっと笑って、俺を見る目が・・・なんか、あつ、い。

雰囲気が
・・・・・・変わった。



「うん・・・あの、・・・知ってる?」


「しってる。あれ見て勉強すんの?」


「うん、結構見てたけど・・・実際に体験してから見れば、また見どころが変わるかな・・・って」


じっと俺を見据える、熱い、視線。
YouTubeと一緒にするなって、怒らせた・・・?



「なるほどね、真面目なしょうくんらしい」


「あは、まじめ、かな」


話は続くけど、俺はもう、心ここにあらず。
返事もあいまいで、思考がうまく進まなくなってきた。

おーちゃんの、涼やかな目元からまっすぐに俺を射る視線に、腹の奥がざわざわする。


「うん、まじめ。そっか、それ。もう見なくていいよ。」

「あ・・・ごめん、おーちゃんみたいなインストラクターしてるレベルのひとからしたら、YouTuberなんて、ちょっと、違ったよね、ごめん。」


しばしの沈黙。

視線は注がれたままの俺は
どんどん中身をのぞかれているような
解放されていくような

・・・息が上がる。



「・・・しょうくん、もう、オイラのもんだ。」