#S




「おーっ!すげーっ!!テントになった!!!」


「ふふ、喜んで貰えてよかった」


ここの差し込みとこの棒を合わせて…?

そっちの棒とこっちの棒をここに固定して……??


なんてせっせと言われるがままにアレコレして


せーので広げたら立派なテントの出来上がり。


やば!すげー!!感動モンだぞコレ!


「いや、マジで、ひとりじゃこんなスムーズにできる気がしねぇです!」



『リーダーのソロキャンちゃんねる』に憧れて

ついにソロキャンデビュー(仮)。


はじめてのテント張り。

からの、

気に入った座り心地のキャンプチェアと

雰囲気のよいランタンをレンタル。

俺好みのリラックス空間を確保。


……思った以上にたのしいぞ、これは。



申し込んだキャンプ場では初心者の為のレクチャーコースがあって、何事も慎重に始めたい俺は、当然教えを乞う。


ここのインストラクター「おーちゃん」は、おもてなしと放置のバランスが俺的にちょうど良く、そのおかげで俺はメキメキとソロキャン力を身につけていってる。



「しょうくんはなかなか…難易度高めな方法に挑むねぇ(笑)」


「おーちゃん、ハッキリ言って?『不器用』って」


「んはは!いやいや、初めてでここまでやれたら上等だよぉ」


うん、やっぱり、たのしい。

おーちゃんとはインストラクターとしての距離感から、すぐに軽口がきける調子になるまですぐだった。


受付をしてくれたちょー明るいイケメン管理人さんの相葉くん曰く


『おーちゃんとしょうさんは多分すーっごい気が合うと思う!』


と、おーちゃんを紹介してくれた時に言ってくれた。



確かにおーちゃんとは歳も近いみたいで、インストラクターの先生というよりは「兄さん」と呼びたくなる雰囲気がある。



平日の日中のキャンプ場。

家族連れもおらず、はしゃぐ若者もいない。


ここに来ているのは、各々の自慢であろうマイキャンプ道具に囲まれて、ゆったりと本を読んだり、めちゃくちゃ高価そうなヘッドホンで音楽を聴いていたり、編み物をしていたり、ひたすら燃える火を見つめていたり。



誰かの目を気にせずに、いかに自分が幸せに過ごせるかを追求する大人ばかり。


そこには個人の価値観だけがあって。

でも、他人を侵害しない配慮があって。




「こんな世界があるんだなぁ……」



「んー?なんかいった?」



「いや…、仕事してるとさ、自分のご機嫌をとることを後回しにしちゃって、どんどん荒んでいくけど、ここではとにかく自分が満たされることが正義なんだなって。」


「しょうくんは、荒んでるの?」


「んー。まあ、荒んでる……ときもある、かな。仕事は好きなんだけどね。」


「今日がはじめましてで、お互いなんにも知らないけど、でも、しょうくんが誰かにキツく当たるのなんか想像できないなぁ」


「あはは!まじ!?俺、怒るとめっちゃコワイよ(笑)」


「ふふ。怖いんだ(笑)でも、怒った顔もかっこよさそう」


「は?かおぉ?」


「そ、顔。しょうくんの顔、かっこいいね」


かっこいいね、と、俺を見て眩しそうに目を細めて、

ふにゃ、と柔らかく笑うおーちゃんに


……なんだかドキッとした。