『慰労会してよ』


と、突然のメッセージ。



…いや、突然、でもないか。


長丁場の作品をやりきったアイツだから

なにか言ってくるとは思ってた。


それも、クランクアップからすぐではなく。

俺の方もたびたびあった深夜の生放送が

段落したタイミングでもあって。


なんというか、気遣い屋のアイツらしい。



『なに食いたい?』



返した返事は即、既読。

そしてさらに返事もすぐ。




『おれん家で』





■■■■■





「今日はずいぶん飲むな」


「だって、翔さんとやっとゆっくり…飲めるし」


「まぁ、たしかに、ここんとこは、ゆっくりってのはなかったよな」


「ふふ…たぶん、翔さんが思ってる理由とは…違うけど、ね。」


「んだよ、それ」



俺の左肩に無遠慮に体重を預けて『ちょうどいい角度だね』と

俺のなで肩を機嫌よくからかいながら、ゆっくり気に入りのウイスキーを舐めている姿は、たぬきオヤジを演じていたとは思えないほどやけに可愛く見える。


大河も終わって、大役の荷を降ろして。


昨年末に「心から楽しみにしている」と公衆の面前で言ったことは、プレッシャーだったかもしれないが、本心を誰に憚ることなく伝えられて、良かったと思っていた。



そんな大仕事を終えた末っ子は、解放感でゆるゆるだ。





「…ねぇ、しょおくん」


甘えた声で俺を呼ぶ。


「んー?」


「今日は、泊まっていける?」


「あ…まぁ、そのつもりではあったけど」


「…マジで」


「おい、なんだよその反応、予想外かよ(笑)」



いつの間にか左肩の体温が離れて

代わりに俺を熱く見つめる瞳が目の前にあった。



息のかかる距離で


『お願いがある』


なんて思い詰めたように言うから何かと身構えれば




「しょおくん、今日は…絶対に朝まで一緒にいてよ」




いつになく真剣に言うから、ついつい意識しそうになりつつ、

だからと言って変に誤魔化すことはできない。




「いやまぁ、そのつもりだけど、なんでわざわざ確認?」


「……そりゃ…いつも『しょーちゃんレーダー』に捕まって、横取りされてるから」


「…っはは!それな!」


「おれにとっては重大なことなんだよ」


「いつも何だかんだといいタイミングで連絡来るもんなぁ」


「ホントだよ、どっかで見てんのかよ」


「それ、こえーよ(笑)」




さっきの真剣さは軽口にまぎれる。


そのままのテンションで、泊まってくれるなら風呂を準備してくるよ、といって潤は立ち上がったが、思いのほか酒が回っていたらしい。ふらつく潤を咄嗟に支えてやることが出来なくて、情けなくも一緒に倒れ込んだ。



潤は俺の上に。



いわゆる『床ドン』だ。



これは……まずい、非常に。




「じゅーん、大丈夫か?」



努めて明るく言ってみるものの、立てないほど強かに酔っているコイツには、空気を変えるという選択肢はないらしい。


みるみる目の色を変えて

カチッ…とロックオンした音が聞こえるかのような。

美形の迫力と欲を宿した目に身動きができずにいると。



「やば…翔さんめっちゃエロい。目ぇ潤んでてすげーそそる。……首筋がピンク色でキレーだね。」



言いながら唇を這わせてくるもんだから

こっちもおふざけは無しだ。



「おい潤、変な気起こすなよ」


「変な気って、……どんな気?」



低く拒否の意味を込めて言ったつもりだったが

その意思を受け取らず、喉の奥でくつくつと笑っている。


次の瞬間には避ける間もなくキスをされていた。




「っんん、…ッはぁ、コラ!んっ…潤!」


「…翔さん、だまって」


「おぃ…ッ!んっ、はァ…んんッ」



アルコールとタバコの味がする熱い舌をねじ込まれて息をするのが難しい。満足に呼吸も出来ないくらいに攻められ、明らかにウエイトに分があるとわかって俺の上にいるコイツを、酔った今の俺は押し返すことは不可能。そのうえ、開放感と酒が手伝って、理性はほとんどないも同然。



これは、何を言っても聞こえていだろうな…。



そんな風にヘンに冷静でいながら

されっぱなしの俺の気がかりは

明日、これを思い出した潤が……後悔しないかどうか。



ここまでで止めさせてやりたいけど……さてどうするか。




好き勝手にするキスを許して

熱い身体と重みを心地よく感じながら

俺も相当酔ってるなぁ

なんて呑気に考えていたところへ




テーブルのスマホが派手に震え出した。


メッセージが来たときの短いそれではなく

明らかに応答を待っている着信。





ビクッと身体を震わせたところを見ると、

無我夢中の境地……というわけでもないらしい。


ならば、話はできる、か。




「ほら、潤…電話とらせて」


「いやだ」


「仕事だったら困るだろ」


「……ずりーよ」


俺もそう思うけど

ここでのお預けはお前のためでもあるわけで。



スマホの画面をみると、…あぁ、やっぱりだ。





「レーダーの感度、バッチリだな」


『は?え?なんのはなし??』


「いやこっちのはなし。おつかれ。」


『うん、巻かなかったけど、押しもしなかった!オンタイムだよ!』


「それはいい現場だな」


『しょーちゃん、まだ潤のとこ?』


「ん、まだいる。ってか、今日は泊まってくから。」


『はぁー??なんでー?何で泊まんだよ!?オレもう帰るし帰ってきてよ!』


「あ、いや、それは無理…ってか、ごめんだけど、今日は潤に朝まで付き合うからさ」


『どうせ酔って可愛い潤に「しょおくん♡」とか言われて、優しぶったんでしょ』


「なんだよ、優しぶるって(笑)」


『……いいよ、わかったよ。とりあえず、また連絡するから。』




なんか、思ったより、あっさり引き下がった?

いや、そりゃ面倒がなくて助かるけど

それはそれで複雑というかなんというか…。




「しょおくん、ありがと…」


「あ、うん。約束したからな、朝までいるって。」


「そうだ、だから、風呂用意したかったのに」


「いいよもう、こんな調子で風呂入って溺れても困る(笑)」


「じゃあ一緒に入ろうよ、おれの風呂、見守ってよ」


「おまえね、無理だってわかってて言うのやめろ?俺だって潤のお願いごとにダメダメ言いたくないんだよ」


「じゃあ、いいじゃん」


「だーめ。……ほら、とりあえずシャワーしてくれば?」


「しょおくん先に行ってよ。おれ入ってる間に帰ったらヤダし」


「んなことしねーって……ったく、じゃぁ、はい、シャワーさせてもらいます」



誰からの電話かなんてわかりきってた。

つまらない理由をつけてわざわざ電話に出たのは

潤のため、そして、今後の俺らのため…だ。


潤がどれほどで俺を想ってくれてるか、それをわからないと言えるほど無関心ではないが、想いを汲み取って距離をとる選択よりは、無神経に側にいる方を良しとしている……今は。





■■■■■





シャワーから出ると潤がわかりやすくめちゃくちゃ拗ねていた。



「…どうした家康。」


「それを言うなら、どうするだし、もう終わったし、面白くないし」


「うん、ごめん。…潤、どした?」


「アイツくる」


「アイツ?……雅紀?」


「そう。」


「マジかよ、相当だな」


って言った俺の声色がはからずも楽しげにうわずったことを、潤が気づかない訳もなく。



「結局、翔さんは相葉くんが持ってくんだ……」


「人をモノみたいに言うなや」


「ほんとまじで、なんで…なんで来るんだよ……ロケで都内にいないって聞いてて、香盤もほぼ毎日てっぺん超えるって言ってたから、だから、絶対邪魔されないと思ってたのに…」


「雅紀が仕事で俺から離れるの狙ってた…?」


「そうだよ。あの人のドラマ始まったら物理的に時間取れなくなって、逆に翔さんの時間が空いた今のタイミングしかなかったんだよ?邪魔されずにゆっくり独り占めできると思ったのに…」



「そういう意味ね……で、アイツここまでくるって?」


「うん。『しょーちゃんが帰ってこないなら、オレが行く』とか言って」


「ははっ、雅紀らしいわ」


「おれは来んなっつったのに『しょーちゃんのいるとこがオレの帰る場所だから』とか言ってさ、全くもって意味がわかんねーよ、くそ」



悪態をつく潤を可愛いと思う気持ちも、それほどまでに、この可愛い男が俺を欲しがってくれてるってことに優越感を感じてしまうのも、どうしたって本当。

でもそうだとしても、どれだけ可愛くて愛おしいとおもうところがあろうとも、ココロもカラダも、俺のど真ん中を熱くさせるのは……ひとりだけなんだ。



潤がぶつぶつと文句を言っている、そのまんまの雅紀の言い草がありありと思い浮かべられて、つい顔が緩んでしまったが、潤には、ちょっと…、いや、かなり、申し訳ないと思わざるを得ない。



時間を気にせず過ごしてやりたかったのは本当だから。


……潤の望むような【朝まで一緒】になるかは別として。



雅紀を想って緩んだ顔を自らの意志で戻す前に

潤の切ない声で引き戻された。




「……2人で過ごしたかった。」


「…ん。」


「2人で過ごしたかったんだよ。」


「うん。わかってるって。だから、朝までいてやるから。」



隣に座って引き寄せてやれば、素直に体重を預けてくる。頭を撫でてやりながらしばらくゆっくり体温を分け合えば、いつの間にか寝息が聞こえてきた。


「じゅーん…寝るならベッド行け?」


「……ん、むり…」


「な?俺じゃお前を運んでやれないから、とりあえず落ちる前に頑張って立ってくれ」


言ったところで、時すでに遅し。


完全に深く寝入ったのが、急に重くなった体重のかかり方でわかった。



「だめだ……なさけねぇなぁ」


どうにか抱き上げてやりたかったけど、無理なものは無理だ。せめて風邪ひかさないように布団だけでもかけてやりたい。


そう思って寝室へ向かおうとした時、お誂え向けにインターホンが鳴った。


寝ている潤が気にはなるが、どうせ起きないし、起きたならむしろ好都合だと思いながら応答する。




「はいよ」


『しょーちゃん!無事!?』


「雅紀はいつもそれだなぁ(笑)」


『そりゃ潤と一緒の時にはまず安否確認だよ!ってか開けてよ!』


「お、わりー」



それぞれが勝手知ったる他人の家、俺は勝手に招き入れ、雅紀は勝手に上がってくる。





「しょーちゃん!良かった!」


「おおげさ……んッ、ちょ、まさ、き……ンッ、」



上がってくるなり俺を抱きしめて両手で頬を捕まえられたかと思った瞬間、雅紀の唇で息を塞がれる。



「…ん、…ッはぁ…」



雅紀から熱いキスをもらった瞬間、さっき潤からくらったキスに罪悪感が押し寄せる。それを無意識に誤魔化そうとして、雅紀に咎めるようなことを言う。



「あなたね、場所考えなさいよ…」


「しょーちゃん酒くさい…あとタバコ。」


「…そりゃ飲んでたし、潤と一緒だからな」


「吸いすぎ飲みすぎはダメだかんな」


「わかってるよ」


誤魔化そうとすればするほど、雅紀が俺を抱く力が増す。

観念してからだを預ければ、しっくりと心地よい。

キスの余韻で抱きしめられたまま、喋るたびに響く声の振動が気に入っている。



ちょっと汗臭いまさきの首筋を鼻先でなぞって、気持ちよく抱きしてめくれる雅紀の腕に身を任せると、急に意識が重くなってくる。


「…しょーちゃん、ねむい?」


「ん、急に、きた」


「安心したんだ、オレが来て」


「そーかも…」


「潤に、悪さ、されなかった?」


「…わるさ…?」


「ほら、家に連れ込まれてさ」


「あぁー…そうだな……悪さ、ねぇ」



潤と、それから俺の保身のために、あのキスは言わないでおこうと思った矢先



「…なんか、あったね。」



こいつマジでなんなんだ

野生の勘が過ぎる



「なんもないって」



「あのねしょーちゃん。大事なメスを横取りされるようなことがないように、オスはしっかりマーキングするし、いざとなったら戦うよ?」


「俺はメスじゃねぇし、自分の身は自分で守る」


「……守れてねーじゃん」


「は?何言ってんの」



言うが早いか首筋を無遠慮に強く吸われた。




「潤にやられてたから上書きしといた」


「…マジかよ、全然気づかなかった…」


「酔ってたからじゃん?それに、本人からは死角になるとこだし、油断も隙もねぇよ。潤にすげー嫌がられたけど、来てマジでよかった。」


「『しょーちゃんレーダー』やべぇな」


「いくらオレだって、潤としょーちゃんが普通に2人でメシ食ったり飲んだりするくらいならなんも言わないよ」


「でも今日は強引に来るって、強行したらしいじゃん?」


「正解だったし。たまに、こうやって、どうしようもなく、そばにいなきゃいけないって時があるの、しょーそー感、ってやつ?」


「焦燥感ね」


「あいつ前科めちゃくちゃあるからね、しょーちゃんは潤にはすーぐ優しぶるし」


「だから、優しぶるってなんだよ、俺は優しいの」


「半端な優しさは潤もオレも傷つく。んで、一番傷つくのはしーょちゃん。」


「……わかってる、よ。でもさ……可愛いんだよ、潤のことは」


「わかってるよ、オレだって可愛いと思ってるもん」



潤が寝てるのをいいことに抱き合ったまま小声で話せば、話題がいくら可愛い末っ子のことでも、かかる息の熱さにどうしてもカラダが反応するのは当然のことで。



「…ふふ、しょーちゃんも、かわいい」


そういう雅紀は俺の勃ち上がりかけたソレを擦るように脚の間に膝をいれる。


「…ッ、だーから、雅紀…、場所考えろ……って」


「考えてるよ、だから、やってる」


だんだんと反応する俺のモノにあわせて雅紀の興奮も伝わってくる。雅紀の匂いを強く感じて、腹の奥から迫り上がる熱を抑えきれない。


「しょー、ちゃん……好きだよ」


「ん…まさ……き、…ぁ……ん」


深く溶けるようなキスをしながら

完全に勃ちあがったお互いを意識的に押し付け合う。

めちゃくちゃエロいオスの目で俺を見るから

雅紀にのせられて簡単に欲情する。


「可愛い潤にだってしょーちゃんだけは、絶対ダメ。しょーちゃんは、オレのだから。ぜったいに。」



独占欲を向けられ満たされた思いが、俺の気を緩ませる。


「俺…まさきの、なの?」


「そうでしょ」


所有の断定に安心感と満足感。


甘やかせられ、欲情した自身を自覚しつつ、現状を俯瞰すれば。



ヤバ。

ここ、潤の部屋だよ。




「しょーちゃん、かえろ?」


「いや……ダメだ。約束したんだよ、朝まで一緒にいるって」


「はぁー!?なにそれ!潤のヤツ、そんなこと言ってんの!そんなんいいわけねーじゃん!」


「おい!雅紀、声デカイ!潤が起きる…って、まぁ、起きてもいいけど」


「…ごめん、」


「だから、な?…雅紀も一緒に……い、る?」



ぜったいに断られない確信の下、雅紀が弱い俺のお願いモードで。


「もー…しょーちゃーん、それ、マジでずっちーわ……コレ、どーすんのぉ」


熱を持ったソレらを指して情けない声を出す雅紀は、さっきまでオス全開で迫ってきてたとはおもえないほど。

そんな雅紀のおかげで、少しづつクールダウンしてくる。



「ごめんて、でも、今日はお互いに『慰労会』だったんだよ、いろいろ背負ってたアイツを労ってやりたかったんだよね。」


「…ん、わかった。」


「ありがとな」


「しょーちゃんの『潤への愛』は、オレの分も含まれてっしね。」


「…どゆこと?」


「オレがしょーちゃんを愛してて、しょーちゃんがそれを信じてくれてるから、しょーちゃんは安心して潤を可愛がれるってこと。」


「安心して…?」


「そ。オレが絶対にぜったいに、ぜっっったいに、しょーちゃんを離さないって、しょーちゃんは信じてくれてるでしょ?」


「まぁ、それは…まぁ、うん」


「だから、たとえしょーちゃんが潤に好き放題されたって、しょーちゃんには多少の後ろめたさはあっても、そんなことのせいでオレはしょーちゃんから離れないって思ってるから、ガードがゆるゆるなんでしょ」


「……ごめん」


雅紀には敵わない。

おっしゃる通り。


「もっと警戒して欲しいけどね、オレは」


「善処します」


「ふふ、まぁいいよ、そのたんびにオレは守りに来るし」



『レーダーびんびんだからね!』と、明るく言う雅紀を、どんなに愛おしく思っているか、どうしたら伝わるかな。


雅紀はなんだかんだと、結局優しくて、そして強い。

優しぶってるだけの俺とは器が違うんだ。



「やっぱり、俺には雅紀、なんだよな」




この男の隣にいられて

どれだけ救われているか

どれだけ強くなれるか

生涯をかけて、伝えていきたいって


こころから、そう思った。





■■■■■




翌朝起きた潤はものすごーく不機嫌で。


自分のベッドに俺と雅紀が抱き合って寝てれば

そりゃそうはなるだろうけど。



「他人の家で見境なく盛るのやめろよ」


「盛ってねーし!服きてたじゃん!」


「そういうことじゃねーだろ!翔さんもひでーよ……寝るならおれとでしょ」


「いや、そうは思ったけど、お前のこと抱き上げられなくて、ベッド連れてけなかった」


「え、まって、しょーちゃん、じゃあオレが来なかったら潤とベッドを共にしてたってこと?」


「いやあなた、その言い方は違いますよ?」


「違くねーよ、一緒に寝ようと思ってたってことでしょ!?」


「まぁ、」


「なんでだよ!やっぱ来てマジで!マジで!!よかったわ!」


「いやそれこそ、なんでマジで来るんだよ、ほんと相葉くん邪魔だわー」


「あー!潤ちゃん、それお兄ちゃんに向かってひどいよ?」


「あ?誰がお兄ちゃんだって!?」


「2人ともうるせーよ…」




「「誰のせいだと思ってんの!?」」






今日もやっぱり愛おしい。





My Love

おわり。