オレは改めてあの人のことを話した。

潤くんはオレの話を静かに聞いてくれた。

もう泣くことはなかった。

話してる間は
ずっとしょーちゃんがどこかに触れてくれていて
オレはその温かさに安心して話をすることができた。



「…帰ってくるものだと思ってたから……気持ちが離れるキッカケとかは、全然わかんなかったよ」

「浮気、とかは?」
 
「んー…。あの人は絵も描くけど、キャンプ行ったり、釣りしたり、アウトドアが多かったから、そんな時に長い時間一緒に過ごしてた人はいたかも…ね」

「雅紀さんは、離れてる時間に不安はなかったの?」

「全くなかったワケじゃない…ケド、なんか、好き過ぎてわかんなくなってたんだろうな」

「…いいなぁ」

「は?」

「雅紀さんがわかんなくなっちゃうほど好きだったなんて、カレが羨ましい…」

「どーかなぁ…いまは、しょーちゃんがそばに居てくれるから、あの時がおかしかったカモって客観的に振り返ることができる…ケド、どれだけ振り返ってみたって過去の記憶でしかないからなぁ」

「そうだね……うん。…そうだな。雅紀さんがいましあわせなら過去はどうでもいいや」


…ちょっとびっくりした。
潤くんが、そんなふうに思えるまでになるなんて。

しょーちゃんも同じく思ったらしい。



「『過去も未来も会えない時間も全部』欲しがりの潤がどうでもいいって言えるの、すげーな。」

「しょーちゃん?」

「あ、いや、からかってるわけじゃなくて、なんつーか…俺的に潤に対する信頼度があがったな、と」

「信頼度…」

潤くんがつぶやく。



「過去にあったことは変えられない、出会う前なんだから、仕方ないんだよ、こればっかりは。そんな過去や見えてない時間に起こったことは、雅紀以外の人間にとってはただの『情報』でしかない…だろ?」

「うん、」

「もちろん、その思い出は大切にしてくれたらいいんだよ、その過去があったから、いまの雅紀があるんだし」

「でもさ、僕が最初に雅紀さんに惹かれたのも、その『過去』に触れた時、だったんだよ…あの時、あまりにも鮮明にその時を感じている雅紀さんを目の当たりにしたから…。だから過去を関係ないとは…言えないかも」


「もちろん、囚われるべきじゃないだけで、無視をするわけではないよ。ただ、俺らが感知できないそういうことを、目の前の相手と見つめあうことよりも重要視するべきではない……俺はそう思ってる」


「うん……あ、だから僕が2人を『セフレ』って言った時、否定も肯定もせず、僕次第の答えに委ねてくれたってこと?」

「お、わかってきたな。」

「僕が見えてない『情報』よりも、自分が目の前の2人を見て、感じて、どう思うか、ってこと」


「仰る通り。俺らが何を言ったって潤自身が納得できる答えを見つけて欲しいと思ったから、あんときはそれ以上、俺から言うことは無かったってことだ」

「…ふふ、そっか……なんか、うん、ありがと。」


「…で、だ。」



しょーちゃんが、座り直して潤くんに向き合う。



「潤、おまえ、雅紀を愛したい…って言ったな?」

「うん、ありったけの想いで、愛したい」



潤くんは普通に言ったら引くようなセリフを
最高にカッコよく言ってくれた。




その答えに満足気なしょーちゃんは



「そしたら、俺の話も聞いてもらいたいんだわ」


って、潤くんに優しく笑いかけた。